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その便秘こそ大腸ガンの黄信号

 

  ま え が き

 

 私が大腸ガンとの徹底的な闘いを決意したきっかけは、父親が大腸ガンになったことでした。それ以降、大腸内視鏡検査の専門医として「大腸ガンの撲滅」を目標に、これまでに一万人を越える方の検査を行ない、その中で三〇〇人以上の大腸ガン患者を見つけてきました。臨床をやっていると、中高年の方にすごい勢いで大腸ガンが増えていることを実感します。近い将来、大腸ガンが日本人の死因トップの座に躍り出るのではないかとも予想されています

 大腸ガンが近年日本で急増しているその原因は、食生活の欧米化、すなわち近年急激に脂肪の多い肉食中心に変化したこと、また、食物繊維をあまり摂らなくなったことだといわれています。

 一方、大腸ガンの増加と平行するようにして深刻な便秘に悩んで病院を訪れる方も急増しています。

 女性の三割以上が便秘だと言われますが、食物繊維の摂取不足、ダイエットブーム、女性の社会進出などが原因とされています。ときどき便秘薬を一度に一○〇錠飲んでも効かなくなったというような人が病院に来られます。習慣性・依存性のある下剤から脱却し、自力での排便習慣を回復する。それが将来の大腸ガンの予防のためにも必要です。

 食生活の変化(高脂肪・低繊維食)が便秘と大腸ガンの増加にどうかかわってくるのでしょう?

 それは、宿便、腸内細菌等の腸の汚れが原因だったのです。 ひどい便秘になると、腹痛、頭痛や吹き出物、肌荒れ、あるいはオナラが臭くなったり、体臭や口臭がきつくなったりという症状が伴います。実はこうした不快な症状は、便秘によって腸内細菌の環境が悪くなり、腸が汚れるから起こるのですが、この腸の汚れこそ大腸ガンの要因でもあるのです。

 それを治療するには一度腸内を空っぽにする必要があり、その手段として「腸洗浄」が有効です。「腸洗浄」は、100兆の悪玉菌を一日100億のビフィズス菌で総入れ替えするのに通常30年かかると予想される腸内環境を一日にして変える、まさに「腸内革命」です。

 腸内を完全にクリーニングして、善玉菌が活躍する腸内環境を作ることができれば、便秘と大腸ガンを同時に予防するだけでなく、身体の内から美しく健康になることができるのです。

医師  後藤利夫

 

1

カバー

0

まえがき

1

目次

2

1章 その便秘、放っておくとガンになる
(1)汚れた腸が便秘と大腸ガンの原因だった

 もうすぐ大腸ガンが日本人の死因一位になる

3

 脂肪摂取量と大腸ガンの発生率は正比例する

4

 食物繊維は便秘と大腸ガンを防ぐ

5

 ビール好きな人は大腸ガンになりやすい

6

 大腸ガンの八割以上が発生する部分とは?

7

(2)一人大腸ガン撲滅運動実施中

 私が大腸内視鏡医になったわけ

8

 私が大腸内視鏡医になったわけ(つづき)

9

 首の皮一枚つながった

10

 手術は成功、でも・・・

11

 嫌な予感は、必ず当たる

12

 肝転移!だけど単発

13

 大腸ガンで誰も死なせるものか!という決意

14

 徳田虎雄の徳洲会「虎の穴」修行

15

 大腸ガン撲滅運動実施中!

16

(3)大腸ガン、これだけ知れば大丈夫

 ガンは、粘膜の病気

17

 大腸ガンは大腸ポリープ(いぼ)からできる

18

 大腸ガンは遺伝するか?

19

 大腸ガンを引き起こしやすい環境とは?

20

 「20XX年」その日は必ずやってくる。

21

 「助かるガン」と「助からないガン」

22

 三五歳からのガン年齢≠生き延びるために

23

2章 大腸ガンではぜったい死なない
(1)大腸ガンを100%予防する

 1次予防と2次予防

24

 大腸ガンの三大症状──@腹痛A便通異常B出血の一つでもあったら即受診

25

 早期大腸ガンの症状は──なし

26

 三つのうち、一つでも症状が出た人は幸運?

27

 便潜血検査でガンを発見できる確率は五〇%

28

 便潜血検査にもコツがある

29

 バリウム造影検査では見つからない、平坦型ポリープ

30

 大腸内視鏡なら100%

31

 大腸内視鏡検査では、検査と同時に治療もできる

32

 内視鏡治療の限界

33

(2)完全無痛の大腸内視鏡

 大腸内視鏡検査は、なぜ敬遠されるのか?

34

 本当は、内視鏡検査は痛くない

35

 さらに苦痛の無い検査をめざして

36

 私自身が独自に開発した完全無痛の「水浸法」+「プル法」

37

 ワンパターン・メソッド

38

 麻酔を使いすぎると危険

39

 内視鏡専門医を育てることは国是

40

(3)大腸内視鏡は安全か?

 医療事故と危機管理−報道の一〇〇倍は起きている医療事故

41

 消化管穿孔と麻酔事故

42

 挿入率と挿入時間を競う医者たち

43

 内視鏡事故−内視鏡検査のリスクとガンで死ぬリスク

44

(4)大腸内視鏡の上手な受け方

 検査はいつ受けるか

45

 賢い患者になるために

46

 セカンド・オピニオンを聞く

47

 症状があれば、大腸内視鏡検査を保険で受けられる

48

 医療法と情報公開について

49

 どこで検査を受けるか

50

 大腸内視鏡検査を受ける前に

51

 検査の前の腸洗浄

52

3章 まずは便秘の予防から
(1)間違いだらけの便秘常識

 若い女性に大流行の「便秘」の理由

53

 大腸はなんのためにある?

54

 便秘治療の第一歩とは?

55

 便秘薬は便秘を悪化する──使い続けると100錠飲んでも効かなくなる

56

 浣腸は直腸の痙攣薬

57

 大腸黒皮症(大腸メラノーシス)

58

 コロコロ便

59

 便秘の後で大量の出血−虚血性腸炎

60

 痙攣性便秘

61

 便秘と下痢を繰り返す「過敏性腸症候群」

62

(2)「ダイエット便秘」が急増中

 女性の三人に一人は便秘──増加中の「ダイエット便秘」

63

 痩せると腸が伸びて便秘になる?

64

 ダイエットのやりすぎで、必要な腸の筋肉までなくなる

65

 医者でもあまり知らない、カリウム不足による便秘

66

 朝の一杯の水から

67

 食べないのにおなかが張る

68

 食物繊維はどうやってとる?

69

 サプリメント(栄養補助食品)を利用しましょう

70

 やせ薬

71

(3)難治性の便秘を治す「αループ法」

 内視鏡検査後、便秘がなおった!

72

 内視鏡を入れやすい人と入れにくい人

73

 大腸過長症

74

 大腸下垂

75

 腸管走行異常

76

 S状結腸軸捻転

77

 腸管癒着症

78

4章 きれいな腸を取りもどそう
(1)悪玉菌が引き起こす腸内汚染とは

 「宿便」とは何か?

79

 ビフィズス菌の効用

80

 腸内汚染の原因、悪玉菌

81

(2)「腸内革命」―体の中から美しく、健康に―

 毎日1本「ビフィズス菌飲料」の効果は?

82

 コロン・クレンジング(腸洗浄)で腸内革命

83

 コロン・ハイドロセラピーって、何?

84

あとがき

85

 

2

その便秘こそ大腸ガンの黄信号
 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (1)汚れた腸が便秘と大腸ガンの原因だった

 

もうすぐ大腸ガンが日本人の死因一位になる

 

 日本人の三大死因は、ガン・心疾患・脳血管障害です。

 この三つの病気で亡くなる人は、年間約58万人(平成11年『人口動態統計』)にのぼります。年間の死亡者数が約98万人ですから、三大疾病で死亡する人の割合は、日本人全体の死者の約六割ということになります。

 日本人の死因のトップはガンで、その数は約29万人。以下、心疾患が約15万人、脳血管障害が14万人という順になっています。

 ガンで亡くなる人の割合は、死亡者数全体の約30%を占めていますから、日本人の3人に一人近くがガンで亡くなっている計算になります。

 ガンという病気の怖さは、死亡の数が多いこともさることながら、他の病気と比べると死亡の年齢は若く、働き盛りの生命を否応なく奪うケースもあることです。

 ガンによる死者の増加率は、高齢化のスピードを凌ぐ勢いで増えています。

 一九八〇年には約一六万人だったガンの死亡者数は、1999年には29万人を超え、この20年間で2倍近くに増えています。

 日本人のガンといえば、つい最近まで胃ガンがその代表と考えられてきましたが、現在、死亡者数が最も多いのは肺ガンとなり、以下胃ガン、大腸ガン(直腸ガンと結腸ガン)と続いています。

 この三大ガンの合計はすべてのガンの半分近くに達します。

 とくに、胃ガンの死亡者数は減少傾向になりますが、大腸ガンと肺ガンは増加傾向にありますので、大腸ガンの死亡者数が胃ガンのそれを上回るのは、もはや時間の問題でであると予測されます。

 大腸ガンによる死亡者数がこの四〇年で八倍と急増している事実を冷静に見つめ、なぜ大腸ガンがこれほどハイペースで増えているのか、そしてどうすれば大腸ガンで死なずにすむのかを考えていきましょう。

 

3

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その便秘こそ大腸ガンの黄信号
 1章 その便秘、放っておくとガンになる
  (1)汚れた腸が便秘と大腸ガンの原因だった

 

脂肪摂取量と大腸ガンの発生率は正比例する

 

 解答を先に申し上げると、つまり脂肪をたくさん食べると、大腸ガンになり易いということです。

 大腸ガンが多い地域の研究をしてみると、食事内容がはっきりと違います。

 一番最初にわかったのは、大腸ガンの多い地域では脂肪摂取が多いということです。

 脂肪摂取量は、もちろん国や地域によっても大きな差がありますが、同じ地域でも時間軸によって違ってきます。昔は脂肪摂取が少なかったのに、近年になって増えてきた、ということもあるわけです。たとえば、山間部などはタンパク質が摂りづらい地域だったのに、近年、流通が発達したおかげで好きなだけ摂れるようになった、あるいは冷蔵庫に保存できるようになったという、時間軸における変化があります。つまり、それまでは脂肪摂取量が非常に少ない地域であっても、時代によって変わってくるわけです。

 冷蔵庫が普及するとしばらくして大腸ガンが増えてくるのは、どこの国にも共通した傾向のようです。この観点でいけば、大腸ガンは「冷蔵庫病」と言えるかもしれません。

 また一方で、食事内容を見てみますと、最近わずか二〇年ほどの変化でしょうか、日本では、食事の急速な洋食化が進みました。

 たとえば、欧米化した食生活の代表とでもいえるファーストフード店が、本格的に日本に上陸したのは一九七〇年代の初めでしたが、以来、ハンバーガーやフライドチキンはすっかり日本人の間に定着しています。

 私はことさらハンバーガーやフライドチキンを目の敵にしているわけではありませんが、こういった食べ物が日本人の食習慣を変えたことは間違いないことでしょう。

 そしてその結果、大腸ガンが急増してきているということです。

 もちろん、日本人の食事の欧米化という問題は、何もファーストフード好きの若い人たちだけに見受けられることではありません。焼き肉や揚げ物類、乳製品などが食卓に並ばない日がなくなり、日本人の脂肪摂取量はアッという間に増加しました。中高年の方の中にだって、肉類や脂っこい食べ物を好む人は少なくありません。

 いずれにしても、日本人の脂肪摂取量はずっと増えてきていて、脂肪摂取量と正比例する形で大腸ガンの発生率が上昇しています。

 そして皮肉なことに、こうした日本の動向とは裏腹に、欧米諸国では、近年、日本食は「ヘルシーフード」として高く評価され、寿司や豆腐、醤油などが世界中で市民権を得ています。つまり日本食が低脂肪・低カロリーの健康食であることは、諸外国では広く知られているわけです。

 はてさて、このような欧米のブームから外れた感のある現在の日本は、「一億総脂もの好き、脂肪好き」の様相を呈していて、まさに大腸ガン予備軍が激増している、といっても差し支えない状態にあるわけです。

 

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その便秘こそ大腸ガンの黄信号
 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (1)汚れた腸が便秘と大腸ガンの原因だった

 

食物繊維は便秘と大腸ガンを防ぐ

 

 フィンランドの人たちは、脂肪をとる割には大腸ガンが少ないそうです。その理由を調べた人がいて、どうも欧米人の平均値からすると、フィンランド人は食物繊維を多く取るため、大腸ガンが少ないそうです。

 日本人は昔、芋や豆を多く取っていたので、食物繊維は十分でした。そのため便の量も多かったようです。戦後、アメリカ人の医師が日本人の便を見てその大きさにびっくりしたという話もあるほどです。ところがここへきてたった20年から30年で食事内容が急に変わってしまい、便の量はずっと少なくなってしまいました。

 では、便秘がなぜいけないのかというと、便秘というのは、生ゴミを捨て損なって腸内にどんどん溜めていくようなもので、放っておけば有害な物質が粘膜に作用し、大腸ガンへの近道になるからです。

 そこで、この食物繊維が活躍してくれるのですが、私たちの体の中でどのような働きをしているのか、見ておきましょう。

 ご存じのとおり、食物繊維は消化されないので、食物繊維をたくさん取ると便の量が増え、ところてん式に押し出されるので便秘になりにくいのです。便の量が少なければ一カ月ためておいても平気だったりしますが、便の量が多いと毎日のように出さないとならなくなるので、必然的に腸内の便の回転は早くなるわけです。

 また、食物繊維にはすごく大切な効用があって、腸内の毒性物質を吸収してくれるのです。一言でいうと、食物繊維というのは大腸の雑巾のようなものです。雑巾が毒性のあるものをきれいに吸い取って、便と一緒に外に排出してくれます。

 ただし、「私は便秘とは縁がない快便人間だから、大腸ガンの心配などない」と安心していただいては困ります。高齢になれば、便秘であると否とに関わらず、大腸ガンの発生率はグッと高まりますし、全く便秘を伴わない大腸ガンもたくさんあるのだということを、覚えておいてください。

 

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その便秘こそ大腸ガンの黄信号
 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (1)汚れた腸が便秘と大腸ガンの原因だった

 

ビール好きな人は大腸ガンになりやすい

 

 では、お酒と大腸ガンの関係はどうでしょう。

 実は、ビール党の人にはドキリとする話だと思いますが、いろいろな酒類の中で、ビールだけが大腸ガンのリスク・ファクターであることが知られています。

 他のアルコール飲料は、今のところシロなのですが、ビールだけがクロなのです。

 というわけで、ビール党で、しかも焼き肉大好きというような人は、かなり大腸ガンに注意しましょう。とはいえ、好きなものを食べないようにというのも無理な話でしょうから、ビールを飲むときは、野菜焼きや海藻サラダなども食べるように心がけてみてください。

 ちなみに、タバコと大腸ガンはどうでしょうか?

 健康に有害で有名なタバコも、大腸ガンにとっては関係がなさそうです。喉頭ガン、食道ガン、胃がん、大腸ガンの順で口から遠ざかるほど、タバコの煙の影響は少なくなってきます。当たり前の話ですが・・・。

 

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 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (1)汚れた腸が便秘と大腸ガンの原因だった

 

大腸ガンの八割以上が発生する部分とは?

 

 食べ物を消化するのはもっぱら小腸の役割で、小腸の粘膜には無数のヒダがあり、その表面はビロードの生地のように細かな絨毛という毛で覆われています。

 一方、大腸はヒダなどのないのっぺり顔≠ナ、食べ物の消化・吸収は行なわず、水分を吸収するだけです。

 小腸から出てきた便は、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸とつながって移動し、その間に水分が吸収されていきます。

 大腸ガンの発生率が最も高いのは直腸で、全体の約六〇%、続いてS状結腸の約二〇%、この二つだけで八〇%を超えています。すなわち肛門から30cmまでのところに集中していることになります。

 

 *腸の簡略なイラスト

 

 いったいなぜ、大腸ガンは肛門側に多いのでしょうか?

 また、ずっと長い小腸にガンがなくて短い大腸にガンが多いのはなぜでしょう?

 小腸の中を通ってきた食物のかすは、大腸にきたときには、まだ粥状でどろどろしています。人間が吸収する栄養はもうないのですが、細菌にとってはまだ栄養があります。

 便は大腸を通る間に、細菌によって分解され、また、大腸粘膜によって水分が吸収されます。

 こうして便が大腸の後半にさしかかると、分解されて発生した有毒物質も多く、また水分が少ないので、濃度が高くなっています。

 そういう「古くて汚い便」が便秘などで、ひと所に長居するようになると、当然がんを発生しやすくなるのです。

 長年にわたり便秘ぎみの方は、大腸の肛門側にどうぞお気をつけいただきたい。

 

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その便秘こそ大腸ガンの黄信号
 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (2)一人大腸ガン撲滅運動実施中

 

私が大腸内視鏡医になったわけ

 

 私は、大腸ガンの予防・撲滅こそを自らの最大の使命として、予防のための啓蒙と検査の実施を精力的に行っている日本でも数少ない大腸内視鏡検査のスペシャリストです。

 「それにしてもずいぶん懸命に、大腸ガンと戦ってきたな」と、自分でさえ不思議に思うことがありますが、私が大腸ガンを仇≠ニ考えて戦い続けているのには、理由があります。

 それは、私自身の父親が大腸ガンに罹ったことです。

 平成3年(一九九一年)の6月のことでした。私は当時、東京大学で2年間の研修医を終え、かけ出しの消化器内科医でした。その日、仕事から帰って家でくつろいでいたとき、実家の母から、1本の電話がありました。

 「パパね、大腸ガンじゃないかと思うの」とひどくあわてているのです。日頃から勘のいい母のこの言葉に、私は胸騒ぎを感じながらも、努めて冷静にどういう状況かを尋ねました。

 すると、このところ父はいつもお腹の不調を訴えていたらしく、その日はたまたま仕事が休みだったので近くの病院に検査に行ったところ、大腸にポリープがあって手術を勧められた、というのです。

 ふつう、ポリープならたいてい大腸内視鏡でとれるはず。こみあげてくる不安を押さえ、すぐに父が検査を受けた病院に電話を入れました。

 「肛門から23cmの所、S状結腸に直径3cmのMass(マス=腫瘍のこと)がある。大腸ガンでしょう」。院長からそう言われたのを今でもはっきりと覚えています。

 私の父は、第二次大戦に工兵として従軍した世代で、生来きわめて頑健な人でしたが、病気が発覚する一年ほど前から、体の違和感を訴えていたようです。

 

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その便秘こそ大腸ガンの黄信号
 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (2)一人大腸ガン撲滅運動実施中

 

(ここから校正つづき)

 

 院長から、「肛門から23cmの所、S状結腸に直径3cmのMass(マス=腫瘍のこと)がある。大腸ガンでしょう」と言われたのを今でもはっきり覚えています。

 「しまった!消化器内科医を目指している私が、実の父親の大腸ガンを見つけられないなんて・・・」。後悔と自責の念が頭の中をぐるぐる回りました。

 私の父は、第二次大戦に工兵として従軍した世代で、生来きわめて頑健な人でしたが、病気であることがわかる一年ほど前から、なんとなく体の違和感を訴えていたようです。

 今思い返しても残念ですが、私はちょうどそのころ東京で新米医師として奮闘中で、自分のことで精一杯でしたし、実家と頻繁に連絡を取り合うこともありませんでしたから、本人から直接に症状を聞く機会もなく、時折電話をしてくる母親から、あまり体調がよくないようだという話を聞かされていただけでした。

 またそのころ父はまだ会社に勤めており、会社での定期検診は毎年受けていました。が、残念なことに大腸ガン検診は一度もしていなかったのです。なぜなら、一九九一年当時は、すでに大腸ガンは大幅に増加してきていたのですが、まだ大腸ガン検診は義務づけられていませんでしたので、ほとんどの組織・企業で実施されていなかったのです。

 便潜血の検査が組織・企業レベルで始まったのは、一九九三年以降のことで、国の政策としては遅きに失した感もあります。

 

 父が初めて、身体に自覚症状をもったのは同じ年の4月頃だったようです。梅林に花見に行ったさきで急にお腹が痛くなったのです。トイレに駆け込んでやっとのことで便を出したら、その後は痛みも引いてらくになったのですが、その痛みに何かしらの不安を覚えた父は、翌日、会社の近くの病院に行って診てもらいました。

 そこでは簡単な診察と胃のバリウム造影検査が行われただけで、「異常ありません、心配はいりませんね」と言われたようです。

 これは、あまりに愚かな診察でした。便通と関係のある下腹部の痛みに対して、胃のバリウム検査だけとは、どう考えてもお粗末です。それに、大腸の検査もしないで「心配ない」と断定してしまうということは、この場合あってはならないケースです。私に言わせれば、明らかな誤診です。

 父はその後も、たびたび朝に腹痛を訴え、トイレでなんとか便を出すと少しらくになる、という状態がずっと続いていました。ときには、排便後、便に血や粘液のようなものがつくこともあったようです。

 しかし、元来のんきな父は、病院に行ってちゃんと検査も受け、医者に心配ないと言われたのだから大丈夫だと、安心しきっていたのです。

 ときおり見る出血も、痔があるから、そのせいだろうと都合よく考えていたようです。

 私は病院からくだんのレントゲン写真を取り寄せてみたのですが、すでに大腸はガンが巣くっている所だけ狭くなっていました。これでは当然のこと、便の通りは悪くなっていたはずです。大腸の中のこの狭い部分に溜まったバリウムの映像は、ちょうどかじられたリンゴの芯のように見えることから、我々医者はAppleCore(アップル・コア=リンゴの芯)とこれを呼んでいます。大腸進行ガンの典型的な写真です。

 私は、これが最初で最後の親孝行になるかもしれない、という思いを胸に、父を東京に呼びました。父親のガンを見逃したせめてもの罪滅ぼしに、私のできる限りの手術環境を準備しようと思ったのです。腹部外科の権威であり、昭和天皇の手術もされた大学の教授に執刀を依頼したのも、そんな思いからでした。

 二等兵だった父は、天皇陛下と同じ先生に手術をしてもらえるとはじつに光栄だと言って、手術室に向かったものです。

 このとき、私は父に「ガン」を伝えました。

 

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 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (2)一人大腸ガン撲滅運動実施中

 

首の皮一枚つながった

 

 「親孝行したいときには親はなし」そういえば、昔、父がよく言ってたっけな――そんなことを思い出しながら、廊下で手術中の赤いランプが消えるのを待っていました。

 無事、手術は終わり、家族は手術室に案内されました。そこにはついさっきまで父親の体の中にあった腸管が、長方形に開かれて盆の上に載っていました。真ん中よりはずれたところにクレーターのように周囲が盛り上がり、その中心が崩れて潰瘍になったガンが、その正体を見せていました。

 「こいつか、、、」。敵を目の前に、ある種の戦慄を感じながら、私はコッヘルでそれを摘んでひっくり返してみました。すると、ガンは大腸のいちばん外側の奬膜という薄皮一枚で、わずかに遮られていたのです。

 私は思わず、背筋に寒気を覚えました。それはまさに死の淵へ落ちるぎりぎりのところで踏みとどまっていたのです。

 ガンの進行度というのは、ガン細胞の大きさよりも進達度──つまり組織のどの深さまでガン細胞が達しているか──ということで決まります。進達度から見ると、私の父親の場合、まさに薄皮一枚だけで生命を保っているような状況でした。

 ガンは筋層を完全に超え、奬膜を突き抜ける寸前まで達していたのです。もしガンが奬膜を突き抜けてしまっていたら、ガン細胞がお腹の中のあちこちにばらまかれてしまうので、これはもう助かりません。腹膜播種といって、ガンの転移の中でももっとも怖いものです。

 父の場合、奬膜からガンが透けて見えていたのですから、まさに首の(腸の)皮一枚で命がつながっていたといえます。

 

 大腸がんには、デュークス分類が使われます。各病期の手術後の5年生存率を括弧内に記載しています。

 デュークス A (95%) がんが大腸壁内にとどまるもの

 デュークス B (80%) がんが大腸壁を貫くがリンパ節転移のないもの

 デュークス C (70%) リンパ節転移のあるもの

 デュークス D (25%) 腹膜、肝、肺などへの遠隔転移のあるもの

 

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 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (2)一人大腸ガン撲滅運動実施中

 

手術は成功、でも・・・

 

 幸いガンが奬膜を突き抜けていなかったとはいうものの、やはり心配なのは転移でした。ガンが筋層を越え、血管を咬んでいるので、そこからこぼれたガン細胞が、血管の中を血液の流れに乗って転移する可能性が高いのです。これを血行性転移と言います。大腸の周りの血管は一度、肝臓に集まり、そこで濾過されるのでまずはじめは肝臓に転移することが多いのです。そのフィルターを越えれば次は全身のどこへでも転移します。

 当然のことですが、ガン患者の場合、手術前に全身の検索をしておきます。

 大きなガンが肺や脳に転移していたら、大腸の手術は行ないません。大腸の手術をしても根治する可能性がなく、患者にとって大きな負担となる手術を強行するメリットがないからです。

 父の場合は、事前の検査で遠隔転移は認められていなかったので、ガンの根治を目指しました。執刀医の判断で、リンパ節は全部取る。もちろん体の負担は大きくなりますが、とにかくガンとリンパ節を全部摘出する方法に賭けたのです。

 そうして手術が終わった時点で、遠隔転移はない、手術して播種もなさそう、手術は成功して原発巣は取り切れた。あと、心配なのは血行性転移だけ、ということになりました。ここまでくれば、もう運を天に任せるしかありません。

 転移する元となるガンの巣を原発巣と言いますが、そこが完全に取り切れたということは、ここからは転移しないということです。ただ問題は、すでに転移していて、しかしそれがまだ小さすぎて発見できないという可能性が残っています。もしそうであれば、その隠れているガンは、しばらくして必ず大きくなって現れます。

 残念ながら父のガンはすでに血管にまで浸潤していた、という事実が私の思いに影を落として、すこし嫌な予感を残しつつも、とりあえず手術は成功したのです。

 

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嫌な予感は、必ず当たる

 

 術後は実家に戻り、また地元の病院で予後を診てもらっていました。

 私が腐心していたのは、もし転移の兆しが見えた場合、どれだけ素早く適切な対応が取れるかという点でした。そこで、かかりつけの病院で、ガンの転移の有無が確認できるCEAという腫瘍マーカーでチェックしてもらうよう、父にアドバイスしておきました。

 大腸ガンが肝転移して大きくなってくると、CEAが上がる可能性がありますので、三カ月に一回は測ってもらうように指示しておいたのです。

 CEAの正常値は、施設や検査会社によってやや異なるのですが、だいたい10を超えると異常とされています。父の数値は、しばらくは測定値以下の1.0以下が続いていました。

 「敵」は深く静かに潜行していたのでしょう。手術後1年半たったころの平成5年1月18日に0.9、3月5日に2.9と上がりました。まだ正常値ですが今までと比べるとあきらかに上昇曲線にあります。

 そこで父は先生に「高いのと違いますか?」と聞いたところ、「もう3ヶ月様子を見ましょう」ということになった。そして6月の検査では13.1に跳ね上がっていたのです。「えらい高いけど間違いと違いますか?」と父が聞いたら、「もう1ヶ月先に再検査しましょう」と、先生は答えたといいます。CEAは20%もの偽陽性(異常値であっても癌のないもの)があり、そのため画像診断の補助診断に位置づけられており、高くてもあわてない医師が多いのです。

 その話を聞いて、またもや心配性の母が私に電話をかけてきました。父にグラフを書かせていたのですが、CEAはきれいな曲線を描いて、右上に伸びている。

 私は父を再び東京に呼んで、すぐさま入院させました。転移ガンの検索のためです。転移しているに違いない。肝臓か?飛び越して肺か?

 平静を装いながら、しかし、そのときの私の心中はいたたまれない思いでいっぱいでした。大腸ガンというのは、原発においては半分以上は助かる生存率の高いガンですが、転移ガンとなるとさすがの大腸ガンでも助かる見込みは低い。

 「やはり、ダメだったか……」。しかし、実質的な父親の主治医である私が途方に暮れている場合ではなかったのです。

 

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 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (2)一人大腸ガン撲滅運動実施中

 

肝転移!だけど単発

 

 CTとエコーの検査の結果、やはりガンの転移が見つかりました。大腸ガンが肝臓に転移していたのです。

 原則として、原発ガンは手術しますが、転移ガンは手術しません。転移ガンは、同時に多発することが多いので手術ができないことが多いからです。

 しかし父の場合、肝臓に転移してはいましたが、幸運なことに、一個所にしか転移していなかったのです。もし、肝臓の右葉と左葉の両方に転移していたら、その時点で諦めるしかありませんでした。

 詳しく検査をしてみると、そのガンはどうやらゴルフボールよりも大きくなっていました。元のガンである大腸ガンの細胞が肝臓で増殖したのです。そしてそれは、肝臓の右葉の一番端っこに居座っていました。

 これはまたもや九死に一生のぎりぎりの状態で、もうあと数ミリ外に出ていたら肝臓を突き破り、周りの臓器に転移していたことでしょう。

 しかし、突き破っていない現時点では、むしろ端っこにあるのは、手術で取るには好都合です。気まぐれな神様は、きっと父の上をいったりきたりしていたのでしょう。

 原則的には手術をしない転移ガンですが、この状況では手術するしかないと私は判断しました。しかし、親族の中からは再手術に反対する声もあったのです。

 反対をした親族というのも医者なのですが、私の姉をつかまえてこう言ったそうです。

 「お父さんは転移の肝ガンだったそうだね。もう無理だから、このうえ手術なんてむごいことしないで、せめて余生を楽しませてあげてほしい。余生幾ばくもないのに、痛くて辛い検査や治療はやめてあげてほしい。利夫さんは医者だし、実の息子なんだから、助けたいという気持ちもよくわかるけどね、私の医者としての経験から言うと、もう助からないんだから」

 姉はその親戚の家に父を連れて行って、「こんなに元気でやってるぞ、と顔を見せてやる」と、息巻いていました。ありがたいことに、あれから父親はもう8年を生きています。

 ただ、親戚の医者が言ったことは、あながち見当違いではありません。基本的に転移ガンは手術しないというのがセオリーなのです。治る見込みは、かなり低い。

 しかし父の場合は、運良く単発、しかもとりやすい場所に、ぎりぎりのタイミングで見つかった。父にはまだ、体力も気力もツキもある。しかも、肝臓にあるとはいえ、もともとはタチのいい大腸ガン、そんなに悪玉ではないはず。こうした条件が揃って、手術に踏み切ったのです。

 もちろん内心、一か八かという危うさもあったのですが、父と家族に対しては「絶対に大丈夫」と、精一杯胸を張っていました。

 手術前の7月13日にはCEAは18.6に上がっており、転移ガンの大きさから考えても、もう1ヶ月待っていたらどうなっていたかわかりません。勘のいい母の機転によって、父は2回も命拾いをしたのです。

 

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その便秘こそ大腸ガンの黄信号
 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (2)一人大腸ガン撲滅運動実施中

 

大腸ガンで誰も死なせるものか!という決意

 

 現在、父の最初の大腸ガンの手術から10年、肝臓の手術から8年が経過していますが、父親はとても元気に暮らしています。

 大腸ガンからは何とか逃げ切れたかなという感じです。

 当の父親は、こんなふうに言っています。

 「ガンが見つかったとき、友人や近所の人たちはみな元気だった。そういう人にずいぶん励まされ、心配してもらったけれど、皮肉なことに、当時私を励ましてくれた人たち、元気だった人たちが、どんどん私より先に亡くなってしまった。つい、この間まで元気だった人がね。命というのは不思議なものだ」

 父親は、同年代の人と比べると、もともと体力はあったほうでしょう。今、七七歳ですが、実際の年齢より一〇歳以上若く見られることも多く、そうした要素もガンの克服にはプラスに働いたのでしょう。

 「もうダメだ」と2度までも医者に宣告された父親が、この年齢になって、大好きな写真を撮るために、何十キロもあるカメラや三脚などの本格的な機材を抱えて、朝早くから山登りしている姿を思い浮かべると、人間つくづく体力勝負だな、とあらためて考えさせられます。

 そして父親の、大腸ガンに始まる二度にわたる手術が、私に与えた影響は少なくありません。

 大腸ガンの早期発見に欠かせない大腸内視鏡検査の専門家として、プル法や水浸法(いずれも後述、水浸法の装置は特許取得済)といった独自の技術や、それに関わる装置を開発したりしてきたのも、私自身が父親の大腸ガンに直面したからに他なりません。

 自分の父親が大腸ガンで、しかも進行ガンだと聞かされた時のショックを私は忘れることができません。あの時、すでに進行していた父親の大腸ガンを、もっと早く見つけることができなかった口惜しさを、今も忘れることができません。

 もし父親が大腸ガンに負けて天国に行ったとしても、砕身粉骨して多くの人を救っている息子を見たら、やさしい人だから、きっと許してくれるだろう。そんな思いが、私を大腸ガン撲滅へと駆り立てる原動力になったのです。

 それからずっと、大腸ファイバー1本にかけてきました。

 正確には数えられませんが、これまでに私が内視鏡検査をした人の数は優に一万人を超え、うち三〇〇人の早期ガンを発見しました。もちろん、その人たちは一人も大腸ガンで死なずにすみました。私の心の中では、三〇〇勝した気分です。父親の大腸ガンもいまのところ克服しているわけですから、三〇一勝〇敗と言ってもいいかもしれません。

 私自身は、「大腸ガンをこの世から無くしたい」というほどの気構えを持っていますが、それは私だけの力では達成できません。まずは皆さんの理解があって初めて可能になることです。

 さきほど、私は大腸ガンはタチのいいガンだと言いましたが、前節までで繰り返し述べてきたように、それでも、ごく近い将来「日本人の死因第一位は大腸ガン」という時代が訪れます。

 「タチのいいガンなのに、なぜ、死因のトップになるのか」「検査法も、治療法も確立されているのに、なぜ」と思われることでしょう。ここにこそ、まさに大腸ガンの恐ろしさの全てがあります。一人でも多くの人が、大腸ガンに対して正しい認識を持ち、内視鏡検査を進んで受けさえすれば、大腸ガンの恐怖はこの世から無くせるのです。

 

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その便秘こそ大腸ガンの黄信号
 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (2)一人大腸ガン撲滅運動実施中

 

徳田虎雄の徳洲会「虎の穴」修行

 

 本格的に大腸内視鏡の修行をしようという思いは日に日に強くなり、私はある日、思い立って徳洲会東京本部に出かけました。

 先輩からは、とにかく100例を無事にやることが当面の目標だと言われていましたし、大腸肛門病学会は1000例で専門医として認めてくれるわけですから、まあ、100例で駆け出し、500例で中堅、1000例でやっと一人前だと考えていました。

 ところが大学では、2週に1例、月に2例、年間20余例ですから、このままでは駆け出しの100例までに5年もかかってしまう。そんな悠長なことはやっていられません。

 そこで私は、その規模から単純に徳洲会病院を選択しました。ここなら私の目的を達成するに足るだろうと考えたのです。そして誰の紹介も受けず、単身、永田町の徳洲会本部に行って門を叩いてみました。徳洲会がどういう病院か、徳田虎雄がどういう人か、じつはそのとき私はなんの情報も持っていませんでした。

 しかし、運というのは熱意に見方するもののようで、私が初めて東京本部に足を踏み入れたちょうどそのとき、全国を飛び回っている超多忙な人、徳田虎雄理事長がたまたま本部に顔を出していたのです。

 「ちょうどよかった、今、理事長がいるから、会って直接話してみてはどうですか」と、秘書に紹介されて、そのまま議員会館で食事をするというので付いて行ったのです。テーブルを挟んで向かい合った彼の容貌は、名前の通り今にも咆哮をあげそうな"虎"のようでした。

 「何がしたいのか」と聞くので、「大腸内視鏡がやりたいのです」と、私は、自分の気持ちの正直なところをありのままに話しました。このとき、すべての問答は単刀直入でした。

 とにかく、より多くの経験を積まなければならない、それも短期間に集中してやったほうが上達が早い、他の診療もやりながらでは無駄な時間を費やすので、大腸内視鏡一本でいきたい、というようなことを、矢継ぎ早に話しました。

 これは後から知ったことなのですが、徳田虎雄という人は、じつは全く逆の考え方の持ち主だったのです。医者たるもの、目の前の患者さんに対して全力を尽くすべし、好き嫌いは言わない、相手(疾患)が何であれ闘わなければいけない、という考え方だったのです。

 それとは知らずに、私は続けました。

 「大腸内視鏡をやらせてもらえるのなら、全国どこへでも無給でも行きます」と。

 一瞬の沈黙があって、それからおもむろに彼はこう言いました。「それではすぐに鹿児島へ行け。ゲがでるまでやらせたる」。

 熱意が通じたのか、彼の懐が深いのか、とにかくこの日を境に、私の大腸ガン撲滅構想は具体的な進路を取って進み始めたのです。

 いざ鹿児島へ赴任すると、嬉しいかな、大腸内視鏡に明け暮れる日々が待っていました。そのうえ徳田先生からは毎日のように「今日は何件やったか」と励ましの電話をいただき、ついでにちゃんと給与まで付いてきたのですから、願ってもない状況でした。そしてあれほど立ちふさがっていた100例を、あっけなく1ヶ月で突破したのです。このときは朝から晩まで、夢にまでも大腸内視鏡がでてきました。キチガイみたいに大腸内視鏡に没頭した時期でした。私の大腸内視鏡のスタイルはほとんどこのときにできたものです。とにかくこの鹿児島行きは、私にとってかけがえのない経験でした。

 そして徳洲会の良さを学んだのも、この時期です。とにかく徳田虎雄という人は目標を高く置く人です。いつも自分のできることの2倍を目標に、さらにがんばる人です。

 私もそうした彼の姿勢に感化されて、たとえば一日に5件やれるようになれば10件、10件やれるようになれば20件と頑張ったものです。半日で5件というのが通常の内視鏡検査をついに25件やったときにはさすがに大変でしたが、それも何度もやると慣れてくるから不思議です。

 この目標設定のおかげで、5年間で10000件という異例の大腸内視鏡検査例を経験することができたわけです。

 また、徳洲会は他の病院とはその方針が少々変わっていて、僻地離島に好んで病院を建てます。当然そういうところには大腸内視鏡をする医者などいないので、私はよく出かけて行ったものです。北海道だったり、沖縄だったり、鹿児島の離島だったりするので、移動はなかなか大変なのですが、そういうところでこそ、大腸ガンを早期で見つけて助けたときの喜びもひとしおです。私がここにやって来なければ、きっとそのガンは見つけられなかっただろうと思うからです。

 有史以来無医村の島へなど行くと、村の人たちは心からわれわれ医師を信頼し、必要としています。検査が終わって「大丈夫だよ」と言うと、おばあちゃんは私に手を合わせるのです。医師として当たり前のことをしているだけなのですが、こうして心を寄せられると、なんとしてもガンで死なせるものかと新たな情熱が沸いてくるものです。思えば私は、これまでの僻地離島の診療から、ずいぶん多くのエネルギーをいただいてきたような気がします。

 

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 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (2)一人大腸ガン撲滅運動実施中

 

大腸ガン撲滅運動実施中!

 

 鹿児島の修行を終えて東京に帰ってきてからも、私はせっせと離島・僻地に行き続けました。朝の5時に起きて、毎日のように羽田に向かったものです

 大腸内視鏡を10000人以上したら、早期ガンも300人ほど見つかりました。医療講演も100回くらいしたと思います。鹿児島県の離島、加計呂麻島は人口1700人で1000回以上、大腸内視鏡をやりました。やり始めの頃は、進行ガンもけっこう見つかったのですが、半年もするとだんだん早期ガンしか見つからなくなってきて、最後の方はいくらやっても、もうガンどころかポリープも無くなってきました。加計呂麻島のポリープは全部取り尽くしてしまったのです。人口の割合でいくと、世界で一番大腸内視鏡検査をした比率の高い地域だと思います。

 そしたら、隣の喜界島で30才過ぎの病院の女性職員が大腸ガンで亡くなったという。加計呂麻島は大腸ガン安全宣言を出して撤退し、こんどは喜界島に行った。

 基本的にどんなに忙しくても、患者さんが待っていて、困っているところへは全部行こうと思っていた。数年間、内視鏡をさわらない日は無いくらい仕事をした。今も、できる限りは協力したいと思っている。

 (「大腸ガン撲滅運動」の具体的な内容は、最後にあります)

 

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 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (3)大腸ガン、これだけ知れば大丈夫

 

ガンは、粘膜の病気

 

 あなたは、ガンは、どこにできると思いますか?

 「胃にできれば胃ガン、大腸にできれば大腸ガン、食道にできれば食道ガンだろう?」と、あなたはお考えでしょう。もちろんそうなのですが、問題は胃や大腸のどこにできるのか、ということです。胃にしても、大腸にしても、粘膜、粘膜下層、そして筋層や筋固有層(筋肉)、奬膜などがあるのですが、不思議なことに悪性腫瘍はほとんど粘膜にしかできない。そこで、粘膜が悪性化したものを、特にガンというのです。

 たまに、粘膜より下のところが悪性化することがあります。そういうのは、肉腫と言います。たとえば大腸の平滑筋が悪性化した平滑筋肉腫という悪性腫瘍があります。

 人体に占める粘膜の量はわずか数%にすぎないのですが、悪性腫瘍の八〇〜九〇%はこの粘膜にできます。つまり粘膜は非常に悪性化しやすいところなのです。

 どうして粘膜がそんなにガン化しやすいのでしょうか?

 粘膜は、体の外の世界と接触し、物質のやりとりをします。そのため、組織が障害を受ける確率が高く、絶えず死滅・再生を繰り返します。この異物と接触することと、再生の回転が速いことが悪性化に関係があるのです。

 大腸ガンは、高脂肪が一つの条件だと言いました。

 脂肪たっぷりの肉を食べた後などには、胆のうから大量の胆汁が分泌され、一部は大腸に達します。そこで細菌によって分解され、大腸内に発ガン性の高い毒性物質ができます。その危険な物質が常時大腸の粘膜に接触して刺激を与え続けることになります。これが、ガンのできやすい状態です。

 便秘というのは、大腸の中で発ガン物質を含んだ便を長く滞留させることです。つまり、日常的に便秘をする人の腸の中では、発ガン物質による慢性的な刺激が持続されていることになります。

 食べ物に含まれていたり、食べ物や胆汁が分解されてできた発ガン物質は、便秘によって大腸に溜められ、腸壁に絶えず刺激を与えます。

 

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 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (3)大腸ガン、これだけ知れば大丈夫

 

大腸ガンは大腸ポリープ(いぼ)からできる

 

 それでは、発ガン物質が引き金となって、ある時急に粘膜がガン化するのでしょうか?

 こたえは、Noです。

 大腸の場合、ふつうはじめに大腸ポリープという、大腸のいぼができます。これは細胞が異常に増殖した良性腫瘍で、通常はイボ状に隆起しています。それがだんだん大きくなり、段階的にガンになっていくのです。

 少し専門的になりますが、大腸ポリープが大腸ガンになるメカニズムを簡単にご説明しておきましょう。

 内視鏡で切り取ったポリープはガンになっていないか、顕微鏡の検査に出します。病理組織検査といいます。そこでは細胞は5つのグループに分類されます。グループ1は正常、グループ5がガンで、その間のグループ2から4が、いわゆる良性ポリープです。ポリープは大きさが大きくなるほど、グループ分類も進んでいく傾向にあります。つまり大きいポリープは、同じ細胞がただ増えただけではなく、細胞1つを取ってみてもガンに近づいているということです。このようにして、数ステップの段階を経てガンが完成してゆくのです。

 同じことが、病理学的だけでなく、遺伝子学的にもいわれています。もともと遺伝子の中にガンになる遺伝子に近い遺伝子があり、それを原癌遺伝子といいます。遺伝子は4つの文字の暗号の羅列ですが、原癌遺伝子と癌遺伝子はたった一つの文字が違うだけです。大腸ガンが完成するためには、一つの細胞の中で数個の原癌遺伝子が癌遺伝子にならないといけません。トランプにたとえると4カードそろって初めてガンができるのです。途中の2カードや3カードではまだガンの形質を持ち得ないが、全く正常ともいえない。これがポリープの段階です。

 いずれにしても、昨日まで全く正常だったものが、ある日突然ガンになるというものではなく、数ステップを経て段階的にガンになっていくということです

 ただし、隆起していない平坦型のポリープもあり、大腸では、むしろ隆起していない平坦型ポリープのほうがガンになる確率が高いと言われています。

 また、写真を見ていただければわかるように、平坦型ポリープは、普通に隆起しているタイプと比べると、より見つけにくいのです。この平坦型ポリープを見逃すと、すなわちそれが大腸ガンの見逃しにつながるということでもあるので、大腸ガンの専門医の間では、最近平坦型ポリープを一つでも多く見つけよう≠ニいうのが合言葉になっています。

 

 *普通のポリープと平坦型ポリープ

 

 ガン細胞は自己の増殖に都合のよい形質を備えてゆき、その成長速度を増していきます。ガンが成長し、大きくなりすぎると、ガンの中央部に血液を十分供給できなくなります。するとその部分が潰瘍化して削れていくため、ガンの中央部分が掘られたような形になります。中央がえぐれた火山のようなかたち、これが進行ガンの典型的なかたちです。

 

 進行癌の写真

 

 

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   (3)大腸ガン、これだけ知れば大丈夫

 

大腸ガンは遺伝するか?

 

 ガンに関する相談で比較的多いのが、遺伝に関する悩みです。

 「私の父は大腸ガンで亡くなったのですが、私も大腸ガンが発症するのではないかと不安です。検査は何年おきに受けたらいいですか」といった相談です。

 すべてのガン因子が遺伝するとは言い切れませんが、ガン体質のいくつかは遺伝することが知られています。

 大腸ガンの場合も、ガンを発症する原因の数パーセントには遺伝的背景があると考えられています。

 たとえば、家族の中に五〇歳以下で大腸ガンになった人がいる場合は、それ以外の人より大腸ガンになりやすいと言えます。したがって、早期発見のためにも、家族の中に大腸ガンや大腸ポリープの既往症を持った人がいる場合、なるべく若いうちから検査を受けておくべきでしょう。

 理想としては、35歳から2年に一度は検査を受け、もしポリープがあったら翌年も受ける、受けない年には便潜血検査を行ないます。

 最低限の条件は、40歳を過ぎたら五年に一度、大腸内視鏡検査を受けることです。

 遺伝についてもうちょっとお話しします。多発性ポリープと大腸ポリポーシスという、病名があります。

 大腸ポリープが10個以上あると多発性ポリープといい、100個以上!!あると大腸ポリポーシスといいます。100個以上ある人は、生まれつき大腸ポリープを作る遺伝子を持っている人です。先の4カードで説明すると生まれつき1カードを持って生まれてきた人です。これは遺伝するので、家族性大腸ポリポーシスとも言います。しかしポリープ1つをとってみたら、それは普通の人にできるポリープと全く同じものです。

 普通の人のポリープでもだいたい、10個に1つくらいはガン化しているので、ポリープが10個以上ある多発性ポリープの人は、大腸ガンになりやすい。毎年、大腸内視鏡をやっておかないと非常にガンになりやすい人です。家族性大腸ポリポーシスは100個以上ですから、非常に危ない。内視鏡でとってもとっても追いつかない。私の知っている先生が家族性大腸ポリポーシスの患者さんのポリープを全部取ったことがあるそうですが、それでも安心できません。その人の大腸粘膜の全ての細胞は生まれつきポリープを作る遺伝子を持っているので、すぐまたできてしまうからです。だから、家族性大腸ポリポーシスの人はガンになる前に手術して、大腸をぜんぶ取ってしまいます。

 ある時40才くらいの中年の夫婦が大腸ガンの検査に来ました。ご家族が大腸ガンでなくなって、心配だから受けに来たというのです。よくある話だと思って、どなたが亡くなられたのですかと聞いたら、18才の娘だというのです。悲しいことを思い出させて申し訳なかったですが詳しく伺うと、貧血があり検査をしたら大腸ポリポーシスでガン化しており、発見から数ヶ月もしないうちに肝転移をして、この間亡くなったというのです。

 いずれにしても、大腸ガンになりやすい体質というものがありますから、家系にガンのある方や、今までにご自分にポリープがあった方は用心して定期的に大腸内視鏡検査を受けるようにして頂きたいと思います。

 

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   (3)大腸ガン、これだけ知れば大丈夫

 

大腸ガンを引き起こしやすい環境とは?

 

 大腸ガンは遺伝だけでなく、環境の影響も受けます。どのような環境がガンを起こしやすくするのでしょうか?

 結論から先にいうと、広く浅い刺激が慢性的に続くことが大腸ガンを起こしやすくする環境です。

 大腸が慢性的に炎症を起こす病気を、慢性大腸炎といいますが、その代表的なものに潰瘍性大腸炎とクローン病という病気があります。

 どちらも、慢性的に大腸に炎症を起こすのですが、その特徴を一言でいえば潰瘍性大腸炎は広くて浅い、クローン病は深くて狭い、といえます。

 症状は主に深さに関係しますから、ふつう、クローン病の方が症状は激しいです。しかし、ガンになりやすいのは潰瘍性大腸炎の方です。

 ガンは粘膜が悪性化したものですから、深さはあまり関係がないのです。広い面積に、長い時間、炎症が続くとそれだけガン化の確率が高くなるのです。

 胃ガンの場合も同じようなことがいえます。

 胃の炎症性疾患の代表的なものに、胃潰瘍と慢性胃炎があります。

 胃潰瘍は深くて狭い炎症、慢性胃炎は広くて浅い炎症です。症状が強いのは当然、胃潰瘍ですが、ガン化しやすいのはむしろ慢性胃炎の方です。胃潰瘍は、慢性化することもありますがふつうはすぐ治るので、時間的にも短いので、直接ガンに結びつくことはないと考えられています。

 

 *胃潰瘍で掘れている図と慢性胃炎で広い面に炎症が起きている図の比較

 

 毎朝、熱いお粥を食べる習慣のあった奈良県は食道ガンの多い地方でした。熱いお粥が食道粘膜の広い範囲に軽いやけどのような状態で炎症を引き起こし、それが長い時間に及ぶとガンの確率は増えます。炎症の及ぶ深さは非常に浅いので症状はほとんどないのですが。

 炎症が起こると細胞膜が壊れ、異物刺激がダイレクトに遺伝子に影響を及ぼしやすくなるのでしょう。

 

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 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (3)大腸ガン、これだけ知れば大丈夫

 

「20XX年」その日は必ずやってくる。

 

 そもそも、ガンはいつからあったのでしょう。人類が生まれたときからすでにあったと思われます。ブッダも大腸ガンで亡くなったという説もあります。

 人類は、急に豊かになった。そしてそれに伴うようにして、急に寿命がのびた。ガン年齢の人の割合が増えたのです。30年くらい前から急にガンがクローズアップされてきました。そうしてガン研究が世界中で行われるようになりました。ヒトの遺伝子マップが完成し、ガン研究はその道程の折り返し点は過ぎた感があります。これからの研究はさらにスピードアップしていくことでしょう。

 ひょっとすると、あと10年か20年でガンのメカニズムは全解明され、その特効薬も登場するかもしれません。

 考えてみると、長い人類の歴史の中でガンに苦しめられたのはほんの一瞬のことかもしれません。だからこそ特効薬がない現在は、何とかゴールまでたどり着かなけらばいけません。

 残念ながら今はまだ特効薬はないので、その日までは治療よりは予防を心がけていくしかありません。

 

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 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (3)大腸ガン、これだけ知れば大丈夫

 

「助かるガン」と「助からないガン」

 

 20〜30年前はガンは助からない病気でした。

 20〜30年後はガンは助かる病気でしょう。

 今はどうでしょう?

 ちょうどその過渡期なのです。今は、ガンを一くくりに考えることはできません。

 ガンには助かるガンと助からないガンがあります。

 その決め手は、ガンのできた場所とその進行度です。消化管一つ取ってみても食道ガン、胃ガン、大腸ガンでは予後が随分違います。周囲に血管やリンパの多く臓器の密集した食道が予後が悪いのは当然かもしれませんが、細胞を取り出しても大腸ガンの細胞は胃ガンの細胞に比べて約2倍ゆっくり増殖します。

 今はそういうふうに、一言でガンといってしまわないで、助かるガンと助からないガンにわけたほうが考えやすいと思います。

 助からないガンならあきらめる、けど助かるガンはしっかり予防・治療する。大腸ガンは助かりやすいガンの代表です。

 

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 1章 その便秘、放っておくとガンになる
   (3)大腸ガン、これだけ知れば大丈夫

 

三五歳からのガン年齢≠生き延びるために

 

 医療は経済と連動して動いているようです。

 日本の経済が右肩上がりのときは日本人の平均寿命もぐんぐん伸びてきました。最近の経済の停滞に伴って平均寿命の伸びは見られなくなりました。むしろ少し落ちてきています。

 国も企業も検診に対して十分なお金をかけられなくなってきています。

 今世紀の早い時期に、大腸ガン死が日本人の死因ナンバーワンになるというのに、それを防ぐための対策はまるで進んでいません。それどころか、逆行しているとしか思えないのです。

 たとえば、地方自治体レベルでの健康診断は今後中止の方向で検討されています。

 まず、国が都道府県への補助金をストップさせました。東京都でいえば、市区に補助金が下りてこないのため、市区レベルでの健康診断は、すでに取りやめになっています。

 以前は四〇歳を過ぎると、区役所から大腸ガン検診のすすめという通知が来ていたのですが、それをやめざるを得ない自治体が増えてきています。

 また、形だけ検査が実施されいても、内容としては退歩しているケースもあります。

 たとえば胃がん検診では、従来はバリウム造影で検査をしていましたが最近「ペプシノーゲン法」という血液の検査に変えているところがあります。検査内容としては、血液を採取してガンを早期発見するというふれこみなのですが、こんなに信頼性の低い検査をまともに導入しているのは日本ぐらいです。メリットは、費用が安いということくらいです。

 予算の節約のために、納税者のリスクは高まるばかりです。

 検診のコストパフォーマンスを調べた研究があります。病気になるよりも検診を受けた方が安上がりだというのです。

 しかし、国や企業は検診に対して尻すぼみになってきています。

 この不況の時代こそ、これからはますます自分の健康は自分で守ると言った考え方が必要になってくるでしょう。人類がガンの苦痛と恐怖から解放される日まではなんとか賢く生き延び無ければなりません。そのために、ガンの傾向と対策を立てましょう。

 ガンの統計を見るときに、年齢と性別はもっとも大切な指標です。むだのない予防をするためにも利用されます。以前は40歳以上にガンが多かったのですが、だんだん若年齢化しているように思われます。

 安全のために35歳以上は、ガンになり安い年齢だと考え、積極的に予防に努めてください。毎年のガン検診と、少なくとも5年に一度は人間ドック等で精密検査を受けていただきたいと思います。

 

 

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 2章 大腸ガンではぜったい死なない
   (1)大腸ガンを100%予防する

 

1次予防と2次予防

 

 ガンの予防には1次予防と2次予防があります。

 1次予防は食事とか生活習慣に気をつけて、はじめからガンにならないことです。2次予防とは検査等で早期発見をしてガンを助かるうちに早期治療することです。

 ここでも、ガンの種類によって対応が違います。

 たとえば肺ガンは、今のところ有効な2次予防法がありません。肺ガンを助かるうちに早期発見するためのよい検査法がないのです。ところが肺ガンは、1次予防が簡単です。肺ガンの原因の大半は喫煙が原因ですので、たばこをやめればいいのです。

 大腸ガンはどうでしょうか?

 実は、肺ガンとは全く逆で、1次予防よりも2次予防がきわめて有効です。

 1次予防は食事の予防。大腸ガンの原因は、一言でいえば食事の欧米化、すなわち高脂肪、低繊維食です。昔の日本食中心の時代には大腸ガンが少なかったので、食事を日本食中心に戻せばいいようですが、話はそう簡単ではありません。そうすると確かに大腸ガンは減るかもしれませんが、今度はせっかく減ってきた胃ガンが増えてくるかもしれません。胃ガンは、高塩分、低蛋白の日本食が原因だからです。また、脂肪は大腸ガンのみならず、生活習慣病の最大の敵のように思われていますが、実は人間にとって必要なものです。どんなものでも摂りすぎると害になります。現代では、脂肪をとりすぎている人が多いというだけの話であって、脂肪が有害とは言い切れないのです。欠乏している人には、必要なものです。そこが脂肪がタバコと違うところです。

 2次予防は逆に非常に有効です。大腸ガンにはこれだけをやっていればまず100%死なないという検査があります。また、その確率はずっと下がりますが、非常に簡単で有効な検診もあります。

 極端な話、菜食主義者でも大腸ガンにならないとはいえません。ところが検査を受けると大腸ガンで死なないといえます。大腸ガンが怖くて、好きな肉をがまんしているのなら、食べても検査を受ける方がずっと確実です。

 日本人全体が脂肪の摂取を減らせば、確かに大腸ガンは減るでしょう。しかし個人に限っていえば、脂肪を食べないから大丈夫ですとはいえないので、検査を進めるのです。

 この、はなしを車の保険にたとえてみましょう。

 日本のドライバーがみんな、もうちょっと運転に気をつけたら日本全体からみれば、事故の数はかなり減るでしょう。しかし、あなた個人が十分気をつけて運転しているからといって、絶対事故をしないとは言い切れないので、保険にはいるのです。

 以下、症状、検診、バリウム検査と内視鏡検査による大腸ガンの予防法について、具体的に述べましょう。

 

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 2章 大腸ガンではぜったい死なない
   (1)大腸ガンを100%予防する

 

大腸ガンの三大症状──@腹痛A便通異常B出血の一つでもあったら即受診

 

 @腹痛──曖昧な不快感を見逃すな

 たまたま検査で見つかった大腸ガンの患者さんによく聞くと、「そう言えば、お腹の痛みや違和感を感じていた」と訴える人が少なくありません。痛みというよりは違和感を感じるときがあったという人が多いです。

 お腹の調子が普通ではない。ちょっと重い感じだとか、張っていることが多いというような感じでしょうか。違和感というのは、ただ快適とは言い難い感じが下腹部にあるということです。そういった、軽い症状にも気をつけて、おかしいなと感じたら念のために医師に相談してみましょう。

 このとき注意してほしいのが、医師はきちんと検査をしてくれたかです。せっかく、早期に自分で症状を見つけて医師にかかっても、治療するほどの激しい症状でないと、「もうちょっと様子を見ましょう」というのんびりした医者がいます。そういう医者にかかっても自分で自分の健康を守る知識を知っておいてください。

 また、逆に激しい腹痛が出てくるようであれば、かなり病気の状態は進んでしまっている場合も多いのです。そういう場合でも転移がなければ、助かることの方が多いですから、痛みを我慢せず一刻も早く医者にいくべきです。

 

 A便通異常──便秘や下痢、便が細くなったりしたら要注意

 便通異常といえば、最も多いのが便秘ということになるでしょう。そして、便秘に次いで多いのが下痢です。また、単に便秘をするだけではなくて、便秘と下痢を交互に繰り返すという人もいます。

 それまで便秘傾向などなかった人が、ずっと便秘がちになったとか、長く便秘気味だったのに、このところずっと下痢っぽいというようなことがあると、心配です。

 一方、ずっと普通便が出ていた人で、「最近、どうも便が細いな」と気づくことがありますが、そんな時には、すでに大腸にガンができていたとか、前ガン状態のポリープができていたというケースがかなりあります。

 これは専門的には便柱狭窄と言うのですが、このように非常に細い便しか出なくなるというのも大腸ガンの症状のひとつと言えます。

 B出血・下血──量はわずかでも、安心してはいけない

 第三は出血、下血です。便に血が混じるのが出血で、痔の症状と紛らわしいため判断を誤ることが多いという難点があります。

 排便後、お尻を拭いた時に血が付いていたら下血ですし、便にわずかに血が混じっていても下血です。便器が真っ赤に染まるほどの大量下血というのもありますが、実は、量は多くても少なくてもあまり関係ありません。便に血が混じれば全て下血だと思って、少しだから大丈夫だろうなどと高を括らないでもらいたいのです。

 普通の人は、お尻を拭いてちょっと出血があった程度では検査を受けません。「あれ、切れ痔かな?どうせ、すぐ治るだろう」などと、どうしても軽く見てしまうのです。

 もちろん便器が赤くなるぐらい出血があると、たいていその日のうちに血相を変えて病院へ来てくれるのですが、そういう人の三分の二ぐらいは、残念ながらすでに進行ガンになっているのです。

 ところが、そのくらいの進行ガンでも、すぐに治療を受ければ三分の二は助かります。どんな進行段階においても、少しでも早く治療を受けることが大切なのです。しかし、初めて出血があってから半年とか一年も放っておかれると、今度は他の症状が付随して出てきてしまいます。

 たとえば腸閉塞状態になる。大量出血を起こす。急性腹症、救急車で運ばれる。といったような状況が半年後か一年後にはやってくるのですが、こうなると非常に危ない。

 特に痔の人は、「また痔による出血だろう」とタカを括っているために、大腸ガンの発見が遅れ、死に至るケースが多いことを知っていただきたい。出血に慣れていることがアダになってしまうわけです。「痔とは長いつきあいで、いつものことだからどうってことはないさ」という程度にしか思っていないようです。でも、今回は大腸ガンの症状かもしれません。痔からの出血と直腸ガンからの出血は専門家でも区別が付きません。放っておいたら命取りになってしまうこともあり得るのです。

 痔は大腸ガンのリスクファクターになっています。痔の人ほど、ご用心いただきたいと思います。

 

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 2章 大腸ガンではぜったい死なない
   (1)大腸ガンを100%予防する

 

早期大腸ガンの症状は──なし

 

 「大腸ガンになると、まずどんな症状が出るのですか?」

 これは、講演の時などに、いつもよく聞かれる質問です。

 私が「何もありません。大腸ガンには症状がないのです」と答えると、相手は、「この先生は何を言っているんだ?」という顔をします。

 しかし、それは事実なのです。

 後で詳しく述べますが、大腸ガンの典型的な症状は、@腹痛、A便通異常、B出血がその三大症状とされています。

 しかし、特に早期ガンの場合には、最も多い症状は、「無症状」です。

 これは実に恐ろしいことです。つまり、病気が静かに静かに進行するため、気づきにくいのです。つまり、本人が気づかないうちに発生していて、ほとんど苦痛などの自覚症状がないまま、気がついたころには、すでに進行ガンになっていたというケースが多いということです。

 ガン・ノイローゼのようになるほど神経質になりすぎてはいけませんが、ガンに対して無頓着すぎるのも考えものです。体調のわずかな異変も見逃さず、具体的な症状がなくとも、何か不安を感じたら内視鏡検査を受けてみてもらいたいと思います。

 

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三つのうち、一つでも症状が出た人は幸運?

 

 大腸ガンに限らず、ガンは早期発見と早期治療がなにより重要ですから、以上三つの症状が一つでもあった場合、すみやかに病院へ行くべきです。

 腹痛だったら、激痛を起こして七転八倒してから初めて病院へ行くのではなく、ちょっと嫌な感じがしたり、違和感があったときに受診しておきましょう。

 便通異常も、ひどくなる前の対処が望まれます。腸閉塞を起こしたりするとすぐ命に関わりますから、救急車による搬送されることになります。そうなる前に便秘や下痢を甘く見ず、早めに対応しましょう。

 便の出血にしても、トイレットペーパーに血がにじむようでしたら、痔なのか血便なのか確認するためにも、すぐ診断を受けましょう。その程度で診察を受けておけば、トイレで大出血したり、貧血で倒れて病院に担ぎ込まれてくるようなことは起こらないのです。

 もちろん、理想はこうした諸症状が出る前に検診を受けておくことです。

 内視鏡検査を定期的に受けておきさえすれば、ガン化する前の大腸ポリープの段階で発見し、同時に切除もできてしまいます。ガン細胞があなたの腸の中で生まれる前に治療してしてしまうほうがいいに決まっています。

 ただ、現状では定期的に大腸ガンの検査を受けている人は少なく、どうしても、症状が出てから病院へ行くという人が圧倒的です。そういう意味では、症状が早めに出たほうが大腸ガンは早期に見つかるわけですから、それはむしろ幸運とも考えられます。

 私は、自分で作っているインターネットサイトで大腸ガンの相談室を開いています。

 そこでもう二年以上質問を受けているのですが、最も多い相談事は「こんな症状があるのだが、大丈夫だろうか」というものです。大半は下血がある、腹痛がある、便秘があるという三パターンで、他の症状はごく少数です。

 こういう場合、私は必ず「症状が一つあるのですから、ためらわずに検査をしましょう」と答えるようにしています。相談に来るほとんどの人は、大腸ガンの三大症状を知っているのですが、それにもかかわらず、症状はまだ一つだけだから、もう少し様子を見てもいいのではないかと考えているのです。

 おそらく、「できれば検査は受けたくない。検査自体が怖いし、検査の結果も怖いから、検査は受けたくない」と思うのでしょう。

 しかし、これはどうみても不合理な考え方です。こういう方たちは、症状が二つ揃ったら検査を受けるのでしょうか。それとも三つ揃うまでは絶対に重い腰を上げないとでも言うのでしょうか。いくつか揃うまで待っている間に大腸ガンになってしまうかもしれないし、たとえ症状が二つでも手遅れにならないという保証はどこにもないのです。

 せっかく助かるチャンスが与えられたのに、みすみすそれを逃してしまうのは懸命ではありません。

 不安な症状が出ても、くよくよしたりしないで、大腸ガンの検査を受ける絶好の機会を与えてくれたと感謝するぐらいの気持ちが必要でしょう。

 

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検診と検査、違いはわかりますか?

 

 集団で受ける簡単な検査が検診、検診で異常がでたり、個人で特別に受ける検査が精密検査です。精密検査のことを単に検査ということもあります。検診は手軽で安価ですが精度が低く、検査は高価な分、精度は極めて高い。どれくらい違うかを簡単にいうと、大腸ガンの場合、検診をやるとガンは半分に減るが、検査をやると99%減るでしょう。

 企業単位で集団検診を受ける際、大腸ガンの早期発見のためにと最も普通に行なわれている検診が、便潜血検査です。

 大腸ガンの症状の一つとして出血があります。出血のうち、それを目で確認できるのが下血です。一方、目には見えないのに便に血が含まれている場合があります。これが便潜血で、出血量が少ないために目では確認できないのです。

 このような微量の出血を見極める検査が便潜血検査というわけです。

 「年に一度、必ず便潜血の検査を受けていて、一度も陽性になったことがないから、私は大丈夫ですよ」と自信を持っている人がいます。しかし、内視鏡検査をしている経験から言うと、こういう人はむしろ危ないのです。

 内視鏡検査を行なって、すでに進行ガンが発見されたケースもありました。患者さん本人は、「ずっと便潜血検査をやって、一度も出なかったのに、なぜ?」とショックを受けていましたが、便潜血検査で陽性が出なければ安心だと思っていてはいけません。

 便潜血検査で陽性になり、その結果大腸ガンが発見できた人は不幸中の幸いです。ガンになったことは不幸なことですが、この検査でガンを見つけられる確率は、せいぜい五〇%程度なので、早く発見できて運のいい半分に入ったのです。

 50%をもう少し詳しく説明しましょう。便鮮血検査では進行ガンの三割を見逃してしまいます。

 早期ガンの場合、もっとひどく見逃し率は七割にもなります。

 このことが便潜血検査の前に受診者に十分認知されていないで検診を実施するのは非常に危険なことです。毎年受けているからこそ、実際は危険なのに安心してしまって油断してしまうのです。手遅れになってから、「私はガンが心配だったから毎年検診を受けていた。もし検査が不完全なものだと知っていたらもっと詳しい検査を受けていたのに」という不幸な人を作らないためにも。

 50%の検査を100%信じないでください。

 私は検診自体を否定するものではありません。検診の意味をよく知って有効に利用していただきたいのです。

 見つかったら運がいい、やらないよりはやった方がいいくらいに考えて受けていただきたいと思います。

 後のデータにも出てきますが、検査を受けないときに9人亡くなっていたのが検査をしたら3人減って6人になっただけなのです。別な言い方をすると検診を受けても6人は亡くなったのです。

 

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便潜血検査にもコツがある

 

 便潜血検査は、多くの方が経験されていると思いますが、実はあの簡単な検査にもコツがあるのです。

 大腸内でポリープやガンから出血していた場合、必ずそのポリープなどに接して出てきた側の便にだけ血液が混じっていることになります。運悪く、その血液がついた面を検体として取ることができなければ、いくら調べても出血は確認できません。

 だから、便潜血検査のために便から検体を取る場合、まず割り箸を用意して、便をぐるりと転がして全部の面の表面から万遍なく取るようにしてください。悪いのは、上になっている片面からだけ取ることです。

 また、便潜血検査は1回法、2回法、3回法があり、だんだん精度が高くなっていきますが、判定方法は、そのうち一度でも出血があれば、残りが陰性でも「陽性」です。

 本当は、3回法がいいのですが、検診に十分お金が取れない場合は仕方がなく、2回法や1回法を実施します。

 この判定方法を知ってか知らずか、こういうことをやる医者がいます。1回法で陽性が出た人に、「再検査をしましょう」わざわざ、同じ検査を再検査するのです。すでに1回で陽性と出ているにもかかわらずです。本来、検診で陽性になった人は大腸内視鏡、もしくはバリウム検査をするのがふつうです。

 再検査で出血がないと「問題ないですね」というのです。ガンの出血は常時出るわけではありません。たまにしか出ないのを上手に見つけようとする検査が便潜血検査です。異常があっても異常がなくなるまで検査をしていたのでは、見つかるガンも見つかりません。

 医者として大切なのは、患者をその場で安心させることではなく、本当に深刻な事態が起きないよう万全の注意を払うことだと思います。

 

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バリウム造影検査では見つからない、平坦型ポリープ

 

 大腸ガンの検査および治療法としては、内視鏡検査がベストの方法であることはハッキリしていますが、残念ながらどこでも内視鏡検査が受けられるというわけではないのが現状です。

 厚生労働省は、便潜血検査で陽性が出た場合の大腸の精密検査に関して、次のようなガイドラインを示しています。

 「全大腸内視鏡検査が望ましいが、設備等の理由により内視鏡検査が実施できないときは、S状結腸鏡とバリウム造影の組み合わせ検査でもよい」

 バリウム造影は、まず腸の中にバリウムを注入してバリウムの薄い膜を作り、その後、腸内に空気を入れて腸を膨らませます。この状態でレントゲン撮影をすると、バリウムのついている部分だけが陰のように映り、仮にポリープがあったら、ポリープの輪郭が確認できるというわけです。ただし、屈曲部は確認が難しいですし、特にくねくねと曲がっているS状結腸の部分などは、陰が重なっるためガンやポリープを見逃すくなります。

 また、平坦型ポリープといって、平たい形のポリープがガンになりやすいといわれて最近注目されていますが、こういうのも色の変化で見つけることのできないバリウム造影は不利です。

 

 *注腸バリウムの写真か図版

 

 皮肉なことに、バリウム造影で確認しづらい部分ほどガンの発生率が高いのです。

 S状結腸や直腸には、大腸ガンの約八割が集中しています。

 そんな危険ゾーン≠苦手とするバリウム造影は、なるべく避け、なるべく内視鏡検査を受けるようにしてください。

 他にも、便をポリープと見間違える、ポリープがあるときに組織検査ができない、ポリープ切除などの治療的手技ができない、など手間と費用は内視鏡検査と同じくらいかかるわりに不利な点が多いです。

 内視鏡が入りにくいタイプの人には、バリウム造影は残された最後の方法として今でも有効です。

 

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大腸内視鏡なら100%

 

 大腸内視鏡は、先端にカメラを付けた細い管を肛門から腸の中に入れ、モニターを通して子細に大腸内を観察することができます。近年、その性能(解像度)は目覚ましい進歩を遂げており、レントゲン撮影では全く発見できないようなごく小さなポリープなどわずかな病変でも確認できるようになってきています。内視鏡検査でポリープを発見すると、その様子はテレビに映し出されます。

 内視鏡検査さえ受けて、早期ガンの段階で発見でき、その場で内視鏡で切除してしまえば、ほぼ一〇〇%(99.5%)完治します。

 35歳以上、2年に一度、受けるのが理想です。ガン家系、ポリープ歴、高脂肪食等のリスクが高い人は毎年が理想です。少なくとも、40歳以上、5年に一度は受けましょう。これが最低限のラインだと考えます。ガン細胞を取り出して培養してみると大腸ガンの成長スピードは胃がんの約半分でゆっくり大きくなります。だから、胃がんは毎年の検査が必要ですが、大腸がんの検査は2年に1度でいいでしょう。

 内視鏡検査は一生のうちで1度だけ受けたらいいものではありません。大腸ガンで亡くなった人で5年以内に大腸内視鏡を受けていた人は少ないでしょう。助かるためには検査は遅すぎても早すぎてもいけません。ちょうどいいタイミングでやらないといけません。そのために、最低、5年に一度はやるのです。

 ところが初めて受けたときに、とんでもない痛い思いをした人はもうあんな検査は2度と受けないと思っている人もいるでしょう。患者さんにいいたいのは、1回で懲りないでいただきたい。大腸内視鏡はすべての医療技術の中でもっとも医師の技術差の大きい検査で、ある人がやって死ぬほど痛かった検査が別な人がやれば嘘のように痛くない。医師にいいたいのは、医師は途中でやめてでも、そこまで苦しめてはいけなかったのです。そのせいでその人が検査恐怖症になって将来の大腸ガンの発見に妨げとなるまもしれないからです。現在の1時点でがんである確率よりも将来のいつか、がんになる確率の方が高いのです。1回の検査のせいで大腸内視鏡恐怖症の人を作ると、その人はその後の検査を受けなくなるので、よけいに大腸ガンが発見しにくくなります。「必ず全大腸をみる」、医師のその責任感とプライドが逆に患者をガンの淵に追い込むことになる。患者さんが苦痛を訴えたら中止する勇気を持っていただきたい。精度は多少落ちますが、バリウム造影などの代替の検査法もあるのですから。

 

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大腸内視鏡検査では、検査と同時に治療もできる

 

 大腸ガンは、頻度が非常に高く、自覚症状が出にくいですが、大腸内視鏡で見つかりやすい、ガンの進行が遅いので遅く見つけてもなんとか助かる、という特徴があります。

 だから、大腸内視鏡検査がその予防に有効なのはおわかり頂けるでしょう。

 さらに大腸内視鏡は、治療の面でも極めて高いポテンシャルを発揮します。

 大腸内視鏡は、小さなポリープにできた早期ガンでも、開腹手術をしないで検査のその場で切除し、治療することができるのです。これを、内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)といいます。

 もし、ガンになっていなくてもポリープは放置しておくとガン化する可能性が高いので、可能な限り早期に切除したほうがいいのです。大腸のポリープは連続的に大腸ガンに移行していくので、たとえ良性でも切除するのが常識です。

 インターネットの医療相談で最近あった話です。「以前バリウムの検査を受けて、大腸に小指の先くらいの大きさのポリープがあるといわれたが、多分大丈夫でしょうといわれた。最近、腸の調子がよくがないが、ポリープは大丈夫でしょうか?」小指の先ほどといえばしっかりしたポリープです。この医者は何のために検査をしたのでしょうか?進行ガンでないと対応しないのでしょうか?多分大丈夫と言うことは、もし万一とは考えなかったのでしょうか?この方が、ガンでないことを祈るばかりです。

 内視鏡検査の途中でポリープを発見すると内視鏡の中を通っているの細い管の中に、ワイヤを通します。それをポリープの根っこに投げ縄のようにかけて、根っこから切り取るのです。このときにワイヤに電気を通すと電気メスの原理できれいに切り取られます。切り取ったポリープは回収して、顕微鏡の詳しい検査に出します。そして細胞の検査をする病理医にガンがないかどうかチェックしてもらうのです。

 切除のときも痛みはなく、いつ切ったかわからないうちに治療は終わります。その日は家に帰って、家族とふつうに食事ができます。こんなに簡単に日帰りでガンの手術ができるのは、内視鏡によるポリープ切除術だけでしょう。

 

 

 

 *ポリペクトミー写真(および解説イラスト)

 

 

 大腸ガンは死亡者は多い、だけど助かりやすい。一見矛盾するこの言葉はなにを意味していいるのでしょうか?

 ガンの統計は、死亡者の統計であって、患者の統計ではありません。大腸ガンは助かりやすいガンの代表ですが、それでも死亡者が多いということは、大腸ガン患者は圧倒的に多いということです。

 ポリープがガンになりますので、ポリープはもっと多いことになります。検査をすると10人中3人にポリープがあり、さらにポリープがある人の10人に1人がガンがあります。また、ポリープが10個につきだいたい1個がガンです。ポリープが10個以上ある人は、ガンの確率が高く、100個以上ある人は必発です。

 特に、大腸早期ガンのうちの粘膜内ガン(上皮内ガンともいいますが)は、あまりに頻度が高いので、一部のガン保険からは除外されているくらいです。

 「ポリペクトミー」、この言葉を私はいったい何回言ったでしょう?今まで10000件の検査をしてきて、ポリープを取った人はおよそ3割の3000人、1人で複数個取る人もいるので、5000個以上は取った計算になります。

 ポリープを取る時点では、ガンかどうかははっきりとはわかりません。進行ガンならばだいたい見たらわかりますが、早期ガンは、ポリープの一部がガン化しているだけなので見ただけでは区別が付かないことがあります。だいたい大きさで予想は付きます。直径が1cm以下ならまず大丈夫でしょう。直径が2cmを越えるとガンが増えてきます。

 ポリープを発見したとき、私は小さくても基本的に切除するようにしています。ポリープは、時間が経つとだんだん大きくなり、段階的にガンに近づいていきます。最終的には、ガンになってしまう可能性があります。どうせ取るなら、なるべく小さいうちに取る方が安全です。

 たまに小さいのにガンであるポリープもあります。こういうのは見ただけではわからないのでやはり、小さいのも切除した方が安全です。

 「大きいのは取ったが小さいのは大丈夫だから次回取りましょう」という医者もしますが、その間に大きくなってガン化しないか、心配で生きた心地がしません。精神衛生上も全部取っておいた方が安心です。

 ポリープを取るときは、熱をかけて切り取るので、周りの細胞も死滅します。ポリープの細胞を一つでも残さないためです。このため、正しく取られたポリープのあとから再発することはまずありません。ただ、ポリープのできる人は体質がありますので、また別な場所にできることがあります。

 定期的な検査が必要になるわけです。

 ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)は、おなかを切らない手術です。大腸粘膜には知覚神経がないので、切除時に痛みはありません。施設によって違いが利ますが、入院しないで検査と同時にポリープを発見次第切除し、そのまま帰宅できます。いわゆる日帰り手術の一つです。費用は保険が適応されて費用は2万円ほどですが、これだけで早期ガンでも治るのですから、患者さんのメリットは大きい手術だと思います。

 切除したポリープは顕微鏡でガン細胞がないか調べますが、もしあっても完全に取り切れているときには、この治療だけで終了です。ほぼ100%再発の心配はありません。

 

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内視鏡治療の限界

 

 最新の研究によると、大腸ポリープの中でも、通常の盛り上がるタイプでなく、平坦型のもののほうがガン化しやすいことがわかってきています。この「平坦型ポリープ」というのは盛り上がっていないし、逆に少しへこんでいるような場合もあるので、まず発見が難しい。また、発見できたとしても盛り上がっていないので、ポリペクトミーで切除するにも高度な技術が必要になります。つまり、ポリープ切除に先立って、平坦型ポリープの部分に食塩水を注射し、ふつうのポリープの様な形に盛り上げておく必要があります。この行程の分難しくなります。

 ともかく、この平坦型ポリープの登場で、ますます経験と高度な技術が求められるようになっています。

 ただし、ポリペクトミーも万能ではありません。

 ガンが粘膜にとどまる間は大丈夫ですが、粘膜より下に深く潜っていくととれなくなります。無理をすると、腸に穴を開けたり、取り残して再発する可能性があるからです。

 粘膜の下にガン細胞が多く入っているかどうかは、外から見ただけでは分からないことがあります。そういうときには、粘膜の下に食塩水を注射してみて、盛り上がるかどうかを見ます。うまく盛り上がれば、粘膜にとどまることを意味し、内視鏡で切り取れます。

 それより深く入ったガンは、やっぱり開腹手術する事になります。微妙なケースで、だけど内視鏡で取るには危険と判断してあきらめるときには、もう少し早かったらと残念でなりません。

 

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   (2)完全無痛の大腸内視鏡

 

大腸内視鏡検査は、なぜ敬遠されるのか?

 

 大腸ガンにならないためには、毎日の食事の中でなるべく脂肪を減らし、食物繊維を多く摂ることが大切です。しかし、大腸ガンは自覚症状がない病気であるだけに、最も重要なのは、定期的に検診を受ける、しかも大腸内視鏡のある施設できちんと検査してもらうのがベストですが、それ以外にも「注腸バリウムのレントゲン撮影」、そして「便潜血検査」などがあります。

 ベストの方法が、「大腸内視鏡検査」であることなのはハッキリしているのですが、「大腸内視鏡検査」はとりわけ敬遠されがちです。

 外来で、大腸ガンの疑いのある人に検査を勧めても2人に1人は「でも痛いんでしょう?」と聞きます。

 「出産より痛かった」「扉の向こうで大の大人がうめき声を上げている」とか聞くと怖じ気ずくのもあたりまえです。

 最近は麻酔がブームで、寝かせてやるところも多く、苦痛の訴えは少しは緩和されているようですが、苦痛を与えたあとのいいわけはたいてい「あなたの腸は長い」「手術のせいで腸が癒着している」「便が残っている」などで全部患者さんのせいにしてしまいます。何も知らない患者さんは、自分の腸がいけなくて医師に大変ご迷惑をかけたと逆に謝るしまつ。実は、単なるいいわけで腸が長くても、手術していても、便が残っていても熟練の内視鏡医なら苦痛なく検査することができるのです。

 もう一つの怖さというのは心理的な問題ですが、「検査をして、もし大腸ガンだったらどうしよう」というものです。

 しかし、考えてみてください。大腸内視鏡検査をして、大腸ポリープや早期の大腸ガンの段階で見つかった場合と、ガンを発見されるのが恐ろしいからといって、深刻な自覚症状が出るまで検査を先延ばしにした挙げ句、末期ガンの宣告を受けるのと、どちらが恐ろしいと思いますか?

 助かる見込みのないことを宣告するのは、もっともつらいことです。「あと半年、いや3ヶ月でもはやく検査を受けていたら・・・」と何度心の中でつぶやいたでしょう。それを考えたら、検査を受ける恐怖など、いったいどれほどのものだというのでしょう。

 ぜひとも検査を受ける勇気を持っていただきたいと思います。

 また、特に女性の場合、検査の時に下半身を出さなければいけないのではないかという心配や恥ずかしさがあって、それも検査から足を遠のける理由になっていたようですが、実際に検査を受ける際には、お尻を出さない紙製の検査パンツを男女とも着用してもらいます。また、検査時には照明を暗くするなどの調整によって苦痛を軽減するよう工夫されています。

 

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   (2)完全無痛の大腸内視鏡

 

本当は、内視鏡検査は痛くない

 

 大腸内視鏡を用いて、初めてポリペクトミーでポリープの切除手術が行なわれたのは、一九六九年のことだといいます。内視鏡手術の歴史はもう三〇年以上積み重ねられてきたわけで、けっして短いものではありません。

 ファイバースコープ関連の技術というのは最先端のハイテク技術が集約されたものですから、初期のものと比べると、ハード面でどれほど劇的に進歩してきたかご想像いただけると思います。

 では、医師の技術面での進歩はどうだったでしょう。

 今では当たり前になっている一人で操作する1人法は、日本人で渡米して活躍されている新谷先生によって、初めてが生まれたのです。

 それより以前の初期の時代は、主に二人で大腸ファイバーを操作していました。医師が操作部をコントロールし、助手がスコープの出し入れをしていたのです。術者と助手が声をかけながら入れていきます。大腸内視鏡は右手と左手の協調運動が大切だといわれますが、どんなに息が合っていても、2人であるのは1人でやるほどなめらかにはいかないでしょう。

 一人法も当初は透視を使ってやっていましたが、最近は透視なしが多くなってきました。透視を使う初期のやり方は、いったん腸をおなかの中で1回転しループを描いてから、引き戻します。腸はループ描くとき、引き延ばされているので痛みを感じます。

 新しいやり方は、透視を使わない人によく使われる、もっとエレガントなやり方です。私はプル法と呼んでいますが、呼び方は人それぞれでいろいろありますが、要するに、ループを作らないで、スコープの先端の微妙な動きで直線化したまま、軸のまっすぐな感じを保持したまま入れていくやり方です。スコープを曲げないので、レントゲンなど役に立ちませんから、見ないのです。この方法の最大のメリットは、苦痛が少ないことです。プル法は、おなかの中にたくさん空気が入っていてはうまくいきません。プル法の術者は、あまり空気を入れないからおなかが張ることも少なく、そのことも苦痛が少ない要因になります。

 

 *プッシュ法、プル法の解説イラスト

 

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さらに苦痛の無い検査をめざして

 

 内視鏡事故でもっとも怖いのは穿孔事故です。挿入時になかなかうまく入らないとスコープをぐいぐい押しすぎて、腸を破ってしまうことです。手術をしなければならなくなります。

 腸が破れるほど強く押されていたのですから、麻酔がかかって無ければ、破れる前は当然相当の痛みを感じていたはずです。

 つまり、強い痛みの壁一つ向こうは、穿孔事故です。いつも痛みを与えていてはいつか事故を起こす。従って、事故を起こさないためにも無痛でなければいけない。

 痛みのないプル法をより確実にするために、できるだけ腸に空気を送り込まない。そうしている間に、全く空気を入れない挿入法が完成したのです。2リットルもの大量の空気の代わりに200mlの水を入れるだけです。

 この方法だとプル法が非常にやりやすい。また、おなかが張ることもない。さらに、滑りがよいので流しそうめんのようにするするとスコープが滑って入っていく。

 スコープを2本並べてレールを作り、豚の腸を貼ったおもりを乗せて引いてみました。レールを水に浸して引くと、空気中よりおもりを引く力は半分で済みました。水中の法がそれだけ滑りがよいのです。

 つまり1)スコープを押さず、ループを作らないこと2)空気を入れずおなかが張らないこと3)滑りがよく、スコープを押す力が半分で済むことが、完全無痛の私のやり方です。

 水を入れるこのやり方を私は「水浸法」と呼んでいますが、このとき使う両手を自由にしたまま水を入れるポンプは私が開発したもので、特許を持っています。

 

 

 *大腸内視鏡写真(装置全体・各部アップとも)

 

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   (2)完全無痛の大腸内視鏡

 

私自身が独自に開発した完全無痛の「水浸法」+「プル法」

 

 内視鏡検査医というのは、1000例を経験してようやく一人前と言われます。逆に言うと、その1000例の経験を積むまでの期間が最も事故を起こしやすく、また、患者さんに苦痛を与えてしまう可能性も高いということになります。

 自慢ではありませんが、私はこれまでに10000人を超える方に内視鏡検査を実施し、一度も事故を起こしたことがありません。

 「水浸法」+「プル法」の私のやり方は、苦痛が全くないので患者さんにはとても評判がよくて、特にかつて、大腸内視鏡をいけたことのある人は、みんな驚きます。全く別の検査を受けたように感じておられるでしょう。

 鹿児島時代に2日法の人間ドックを行っていました。1日目は胃カメラ、2日目は大腸内視鏡です。胃カメラには、軽い麻酔を使っていたにもかかわらず、麻酔を使わない大腸内視鏡の方がらくだと100人中82人が答えました。

 

 

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ワンパターン・メソッド

 

 私は、全国でも珍しい大腸内視鏡の専門家ですが、それでも年間2000人程度しか見ることができません。検診などは、一人の力ではどうしようもありません。全国に便潜血陽性者だけでも毎年50万人はいます。私が見られるのはその0.4%です。

 「苦痛のない検査法をもっと広めないと・・・」私の次の目標でした。新しい人を教育する。私のやり方で50人の専門家を育てたら、年間10万人は検査できる。それは、全国の便潜血陽性者の2割に及ぶ。統計的に大腸ガンの死亡者を減らすことができるかもしれない。

 昔、まだ大腸内視鏡の勉強中の頃、有名な先生の所へ見学に行きました。大腸内視鏡にはたくさんのテクニックがありそれぞれ名前があるのですが、その先生が困難なところにさしかかり、しばらく苦労したあと、あるテクニックで通過しました。私は検査後、どうしてそのテクニックを使ったのですか?と聞いたところ、その先生は「それは3000件やった私の経験だよ」と言いました。

 理解には2つのレベルがあります。自分が分かるレベルと人に教えることができるレベルと。別な言い方をすれば、何となく分かるレベルと、はっきり言葉にできるレベルです。先の先生の言葉を聞いたとき、ああ、この先生はまだはっきりとは分かっていないんだな、と思いました。そして、それができないと他の人に教えることができません。

 私はそれから、自分でできるだけでなく、人に教えられるレベルになるように努力してきました。

 挿入法は人によって千差万別ですが、それでは普及しないので一つのやり方を作ってマニュアル化することに腐心しました。

 そうしてできたのがワンパターンメソッドです。数あるテクニックのうち、挿入部位ごとに一番有効なものだけを選んで組み合わせたものです。これの完成によって、人に教えるのが簡単になっただけでなく、自分自身も検査がラクになりました。ワンパターンメソッドは、水浸法でも空気法でも使えます。

 私は、高研という会社のコロンモデル(大腸のモデル)を使って、ワンパターンメソッドを多くの医師に教えてきました。

 平成13年4月、(お尻のかたちをしている)コロンモデルを担いで、ワンパターンメソッドの実演のためにボランティアでニカラグアに行ってきました。その後、グラナダ病院?で水浸法を始めて、やっと奥まで入るようになったと聞いて、私の苦労も無くなりました。

 医療事故と危機管理−報道の一〇〇倍は起きている医療事故。

 

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麻酔を使いすぎると危険

 

 何年か前、東京の病院で胃カメラの検査を受けた医師が検査を受けて終了したら、呼吸が止まっていたと言うことがありました。検査の苦痛を和らげるために使った麻酔薬が効きすぎて、呼吸が止まってしまったのです。検査をしている医師がそれに気づかず、検査を続けていました。一般に呼吸停止から5分で脳に不可逆的な損傷を及ぼします。胃カメラの検査時間10分とすると、終わってから気づいたときにはもう遅いということです。大腸検査でも初心者ほど麻酔を使いたがる傾向にあります。検査の記憶が全くないほどの麻酔はもしかすると危険と隣り合わせかもしれません。

 逆にベテランは麻酔を全く使わない単純検査にこだわる人がいます。

 麻酔は是か非か?それは苦痛の程度によるでしょう。もし外科手術を麻酔なしでやったとしたら拷問です。もし痛がる人がいれば私でも麻酔を使うでしょう。ただ、手術のときのようには使いません。私だったら、少しボーっとするくらいの浅い麻酔を使うでしょう。そのくらいの量だと呼吸への影響はなく、安全だからです。

 

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その便秘こそ大腸ガンの黄信号
 2章 大腸ガンではぜったい死なない
   (2)完全無痛の大腸内視鏡

 

内視鏡専門医を育てることは国是

 

 私の父は、もう2年はやく、大腸ガン検診を国がしていたらあんなに危険な目に遭わなくて済んだかもしれません。人が病気になるときは大きな玉が坂を転がるように、ゆっくりと加速していきます。簡単な検査一つで、まだ動き始めの頃に気がつけば何でもないことなのに、ある程度勢いがつくともうどんな名医でも元に戻すことは難しくなる。

 厚生省が、大腸ガン検診の導入がおくれたのは、50万人と予想された便潜血陽性者の受け入れ施設が用意できないという理由からでした。

 国民に大腸ガンが増えてきているが、2時検査受け入れ施設が少ないから、1時検査を実施しないという考え方も本末転倒でした。

 その後も不足状態が続いているのに、平成11年4月には大腸内視鏡手術の大幅な点数切り下げ(30%以上)を行いました。

 大腸内視鏡は胃カメラのように簡単にはいきません。きちんとした指導を受けていない医師が大腸内視鏡をすると、患者さんの苦痛が大きいばかりか、穿孔事故の危険が高まります。

 長期的な視野で専門家を育てていかなければいけないのに、保険点数を大きく変更されては、専門家を育てにくくなります。

 三五歳以上の人は大腸内視鏡検査を二年に一度受ける。

 もしこれを実行したら、日本から大腸ガンで亡くなる人は皆無になるのではないか、と言えるほど内視鏡検査の効果は高いものです。

 しかしながら、内視鏡検査医の絶対数が足りないのです。実際には、どう考えても三五歳以上の人が二年に一回大腸内視鏡検査を受けるという理想を達成するのは無理ということになります。

 では、現実的な妥協点として、40歳以上は五年に一度受診して、検査を受けない年は便潜血検査を受けてもらうというのが、医師として最大限の譲歩案です。

 それでも医師は全然足りない。

 内視鏡の専門家がいる病院では、胃カメラと大腸検査の比率は2対1がふつうです。胃ガンと大腸ガンの死亡者がほぼ並んでいて、胃カメラは毎年の検査が理想、大腸ガンは2年に一度の検査が理想ですから、この数は理にかなっています。内視鏡の専門家がいないと大腸検査の比率が低くなり、そういう病院はそれだけ大腸ガンを見落とす可能性が高くなります。

 もちろん、内視鏡検査の専門家をどんどん養成していくというのも、われわれの大切な役目だと思っていますし、一人でも多くの人が検診を受けてくれるように啓蒙・宣伝をするという努力も続けていかなければなりません。

 

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 2章 大腸ガンではぜったい死なない
   (3)大腸内視鏡は安全か?

 

医療事故と危機管理−報道の一〇〇倍は起きている医療事故

 

 近年、ありうべからざるというような医療事故が次々と報道されています。しかし、医療の現場が最近になっておかしくなっているとか、医療従事者の質が最近低下しているということではないのだろうと思います。

 最近、事故の絶対数が増えているというのではなくて、逆に、これまでは実際に事故が起きていても、なかなか明るみに出てきていなかっただけなのです。

 昔は事故が起きても、患者さんや家族に正しく伝えることはあり得ませんでした。露骨な表現をするならば、闇から闇へという実態があったはずです。

 ところが、一部の勇気ある人たちの内部告発によって、事故の事実と実態が明らかになってきたということです。

 これまでも起きていた事故が白日のもとにさらされるようになったということは、事故に対してまだしもフェアになってきたということですから、これはいいことです。

 一方、病院側の事故への対応は、これだけ騒がれたいる現在でも、まだまだ不十分と言わざるを得ません。特に遅れているのが、病院側の危機管理システムです。

 死亡事故1件の裏には、国に報告すべき重大な事故を、一〇件ぐらいは起こしており、さらに、報告されない程度の小さな事故は、さらに一〇〇件ぐらい起こしています。

 死亡事故の原因は、決定的な単一の原因によるものではなく、たまたまその時だけ運が悪くて小さなミスが重なっただけのときに起こります。しかし偶然ではありません。死亡事故を起こす病院というのは、ふだんから大きな事故、小さな事故を日常的にたくさん起こしており、その時点で危機管理ができていないから、いつか必ず死亡事故にまで発展してしまうのです。

 事故を起こしても病院の体質はすぐには変わらないので、また同じことをやる可能性があります。新聞などを騒がせたりした病院や、インターネットの医療訴訟の常連の病院は敬遠した方が無難です。

 

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 2章 大腸ガンではぜったい死なない
   (3)大腸内視鏡は安全か?

 

消化管穿孔と麻酔事故

 

 特に大腸内視鏡検査に伴う事故について、もう少し考えてみましょう。

 内視鏡検査では、穿孔(腸壁に穴を空けてしまうこと)と麻酔事故ががもっとも怖い事故です。内視鏡を腸壁に強く押し過ぎると痛みがありますが、さらに強すぎると穿孔します。

 熟練した医者であれば、どれくらい押してもいいのか見当がつきます。経験を積んでいれば、「ああ、これ以上押したら患者さんは痛がるな、穿孔の危険があるな」という予測がつくのです。

 しかし内視鏡検査の経験が乏しい医師では、このへんのさじ加減≠ェわからず、グイグイ押しすぎて腸に穴を空けてしまいます。

 穿孔事故が起きてしまえば、基本的に開腹手術となります。

 さらに、最近は麻酔を使ったための事故も増えています。

 患者さんの苦痛を取ることを優先しようとした結果、麻酔をかけて内視鏡を入れるのです。患者さんの苦痛は少なくなりますが、反面、「痛い」というサインを出すべき時でも何も感じないので、経験の乏しい医者ほど「まだ大丈夫だな」と、内視鏡を押しすぎてしまい、最悪の場合は穿孔してしまうのです。

 患者が「痛い」と声を出すのは、医者への貴重なサインです。それ以上押されると穴が開いてしまうという危険信号を出しているわけです。医者がそれを無視してしまったら、コミュニケーションはとれません。結局、患者さんのSOSが医者に届かず、腸に穴を空けてしまうということになります。

 内視鏡検査というのは、弱ったことに、初心者ほど患者さんに痛みを与えます。患者さんに「痛い、痛い」と言われるので、初心者ほど使用する麻酔薬の量が増えます。だから、初心者ほど出血や穿孔事故も多くなりますし、さらに恐ろしい麻酔事故さえ招きかねません。

 一方、ベテランで腕のいい医師ほど患者さんを痛がらせず、しかもスピーディーに検査をすませますから、麻酔を使わないか、患者さんにリラックスしてもらうために、ごく少量使うだけということになります。

 麻酔を使った検査がどう行なわれるかというと、まず患者さんに強い痛み止めの注射を打って寝てもらいます。内視鏡検査はモニターの画面で腸の状態などを見るため、モニターが見やすくなるように、部屋の照明をやや暗くします。もちろん、暗い中でも患者さんの呼吸状態はきちんとチェックされていますが、初心者の医者だったりすると、内視鏡をうまく挿入することだけに気を取られて、麻酔で眠っている患者さんへの注意が散漫になることがあります。ふと気づくと、強すぎる麻酔が効いてしまって呼吸していない患者さんの姿に慌てふためくのです。

 麻酔事故は恐ろしいものです。もし、無呼吸の時間が五分以上続いたら、脳は不可逆のダメージを受け、植物状態になってしまいます。

 私自身は幸いにして、これまでに一万人を超える検査をして無事故という実績を持っていますが、いくら数をこなしても、緊張感を失ったことはありません。人間の腸は、原則的には同じ構造ですが、顔かたちと同じで、細かい部分ではそれぞれ違うからです。

 私自身は検査でほとんど麻酔を使いませんが、麻酔の使用を完全に否定はしません。患者さんの心理状態によっては必要なケースもあるからです。ただし、自分の技能のお粗末さをごまかすために安易に使用していたら、必ず事故が起こります。

 そういう理由で、大腸内視鏡は難しいのです。痛みを与えないようにすることは、内視鏡事故の予防のために、不可欠なことです。

 

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 2章 大腸ガンではぜったい死なない
   (3)大腸内視鏡は安全か?

 

挿入率と挿入時間を競う医者たち

 

 私が内視鏡をやっているとよく、他の医師に挿入時間や挿入率を聞かれます。大腸の一番奥の盲腸まで到達する時間と率のことで、検査の経験数とともに内視鏡の技術の物差しになっています。盲腸まで達した検査をトータル・コロノスコピーと言います。トータルコロノスコピーを5分以内でやるのが、一流だそうです。しかし、5分と10分とどれだけの違いがあるのでしょう。患者さんを主体に考えるのなら、それよりも苦痛を与えない、危険の少ない検査を目指してもらいたいものです。また、どうしても挿入が困難なときがあります。そういうときは検査時間が長くなり、患者さんもかなりの苦痛を伴いがちです。他に変わる検査もあるのですからあまり、深追いするのはどうかと思います。その時は、うまくいっても、その患者さんがもう2度と検査を受けなくなったら、検診としては失敗だといえるでしょう。たまに「痛いからもうやめてくれ」と患者さんが言っているのに「もうちょっとがんばりましょう」といって、なかなかやめない医師がいますが、見ていても怖い気がします。

 以前聞いた話ですが、某大学の教授が大腸内視鏡検査中やめてくれと叫んでいた患者に、検査後殴られたというのです。本人は笑い話のつもりなのでしょうが、私は全然笑えませんでした。その人の内視鏡の挿入技術のなさを笑うよりも、患者をどのように考えているのか医師としてのあり方に首をひねりたくなります。

 医師に対して言いたいことですが、挿入困難は早めに中止する勇気を持ってほしいと思います。

 検査を始めてみた結果、内視鏡の挿入が難しい人に対しては、すぐに他の方法を考えなければなりません。ファイバースコープをすぐに抜き、即座にバリウム造影に切り替えて、内視鏡で見ることができなかった部分もその日のうちにレントゲンで見て判断するという姿勢が大切です。バリウム造影は、もちろん内視鏡より診断能が落ちますが、大きなガンであれば、まず見逃すことはありません。

 何が何でも内視鏡というのは、医者のエゴにすぎないわけで、患者さんの苦痛や事故の危険考えると、必要なときには検査を中止することも大切です。

 挿入時間や挿入率を議論する前に患者さんの苦痛や事故率について議論して欲しいものです。

 

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 2章 大腸ガンではぜったい死なない
   (3)大腸内視鏡は安全か?

 

内視鏡事故−内視鏡検査のリスクとガンで死ぬリスク

 

 その他の大腸内視鏡検査の事故はどのようなものがあるのでしょうか?

 穿孔

 出血

 麻酔

 落下

 ガス爆発

 機械の故障

 鎮痙剤の副作用

 穿孔と出血が2大事故です。

 穿孔はスコープが腸を突き破ることです。挿入時にスコープを押しすぎて破る場合と、ポリープを取るときに焼きすぎて穴があく場合があります。穿孔すると外科的におなかを開けて破れたところを縫います。

 出血はポリープを取った後、傷口から出血します。再び内視鏡をして止血操作をします。

 麻酔事故は、麻酔が効きすぎて呼吸が止まります。麻酔が覚めるまで人工呼吸すればいいのですが、気が付かないと植物人間になったり死にます。

 落下事故は、検査台から落ちることです。高齢者が腕や腰の骨を折ったりします。

 ガス爆発は、ポリープを取るときに火花が腸のガスに引火して腸内で爆発します。びっくりします。

 機械の故障は、カメラが急に見えなくなったり、ポリープを切り取るワイヤーが切れたり、電気メスの電気が流れなくなったりです。

 鎮痙剤の副作用は、薬のアレルギーとか、狭心症発作とか、検査後おしっこが一時的に出なくなり導尿するとかです。

 いろいろ書くと恐ろしいようですが、この中でたまにあるのは出血(2000件に1件)と機械の故障(年に1度)くらいのものです。10000万件やって大事に行った他ものは1例もありませんのでご心配なく。しかし、これらの事故が絶対起きないようにいつも心を新たにしています。

 (私の事故予防法)

 穿孔・・・穿孔する前に苦痛がある、苦痛を越えたところに穿孔があるので、もともと苦痛を与えない「水浸法」は穿孔を起こさない。予防法は、苦痛を与えないこと、痛がったときはすぐに中止すること。

 出血・・・ポリープを取った人ほぼ全例にあらかじめ止血処置をしておく。「転ばぬ先の杖」

 麻酔・・・かけなくても痛くないので、全くかけないか、かけてもわずかにしておく。

 落下・・・ベッドの前後に必ず人がいるようにする。

 ガス爆発・・・「水浸法」では挿入時にガスをすべて抜く。

 機械の故障・・・日頃の手入れ。臨床工学士さん、ご苦労さん。

 鎮痙剤の副作用・・・注射前のチェック。看護婦さん、ご苦労さん。

 ずらっと並べると怖くなってきます。たしかに大腸内視鏡事故は胃カメラに比べ事故率が高いですが、ほとんどは検者の操作の未熟さに起因するもので、ベテランが行えば事故率は胃カメラと変わらないと思います。私が行った検査10000例中大きな事故はなく、出血が5件のみ、その間に見つかった大腸ガンは300例あまり、大腸ガン予防のために、大腸内視鏡検査はリスクが低いわりに効果が高い検査です。

 ベテラン医師ならまず大丈夫でしょう。特に麻酔を使わず、苦痛のない検査をする技術があれば、事故の可能性はきわめて低いと思います。

 

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 2章 大腸ガンではぜったい死なない
   (4)大腸内視鏡の上手な受け方

 

検査はいつ受けるか

 

 何も症状が無くてもガン年齢になったら、定期的な検査を受けるべきです。ましてや検査を受けていなくて症状があればぜったい検査をしなければいけません。検査をしないと診察だけではわからないのですから。だから専門家は、症状を訴えて検査歴がなければまず、検査を勧めるでしょう。

 ところがおなかが専門でない先生の中には、あまり検査をしたがらない先生もいます。そういう先生は、詳しい検査をせずに簡単な問診と診察だけですぐに病名をつけます。

 急におなかが痛くなったら急性胃炎。

 昔からなら慢性胃炎。

 すごく痛ければ胃潰瘍。

 それ以外は全部胃痙攣。

 全部胃ぐすりで治ります。

 体重が10キロくらい落ちるか、吐血でもしたら胃ガンかもしれないからしょうがないから、バリウムの検査でもしましょうか。

 みたいな医者にかかっていると、あなたは死にます。

 病名を付けるのに、症状が合致するもののうち、検査等で1つずつ違うものを除外していくのがただしい診断法です。症状が合致するもののうち頻度が高いもの順に付けていくものではありません。

 除外診断については、過敏性腸症候群のところでも述べましたが、他のすべての疾患が否定されたとき、始めて診断されるものです。

 したがって、考えうるかぎりの検査をし、いろいろな病気の可能性の芽を摘んだ後に、診断されるのが本来の除外診断ということになります。

 ところが、そういったプロセスを経ずに除外診断を下す医師がいます。除外診断をせずに確率の高い病気だと決めつけるなら、医者ではなくて占い師でしょう。

 たとえば、胃の調子が悪くて病院へ行っても、胃痙攣と診断します。胃のバリウム造影、あるいは胃カメラで他の病気がないか調べないで、「心配ありません、胃痙攣でしょう」で診断はおしまい。

 胃カメラかバリウム造影で胃炎や胃潰瘍くらいは除外しないと胃痙攣とは診断できないでしょう。専門家なら胃痙攣かなと思っても、万一のこともあるので検査をします。そういうふうにしてガンが見つかって危なく見落としそうになった経験があるからです。

 私の父親がガンだとわかったときも同じでした。実際は大腸ガンだったのに、胃カメラだけで大丈夫と言われたのです。

 医者は本来、軽々に「大丈夫」と言ってはならないのです。最後まで徹底的に調べたうえで、初めて大丈夫だとしか診断を下せないはずなのに、リップサービスをしすぎてしまう、「心配ありませんよ」医者には注意しましょう。本人が楽観的過ぎるせいか、患者さんへのサービスが良すぎるせいか知りませんが、患者さんから見ればガンを口だけで胃痙攣にまけてもらってもうれしくない。

 どちらかというと、病気に対しては悲観的に診るタイプの医者のほうが信頼できます。「大丈夫かもしれないが、もし万一悪い病気であるといけないから」という態度がないと、早期ガンなどとうてい見つかりません。

 もし、調子が悪くて医者に行ってもし検査もせずに薬だけくれたら、もう一度別な医者にセカンド・オピニオンを求めてみたほうがいいかもしれません。

 

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 2章 大腸ガンではぜったい死なない
   (4)大腸内視鏡の上手な受け方

 

賢い患者になるために

 

 「もうちょっと様子を見ましょう」が口癖の医者は、早期ガンを発見できません。症状が軽微なのが早期ガンの特徴ですが、症状が軽微なうちは薬を出すだけで、症状がひどくなってから初めて重い腰を上げて検査をします。

 見つかったときはいつも進行ガンで、患者はすでに半分くらい棺桶に足をつっこんでいます。

 医師に症状を訴えても「もうちょっと様子を見ましょう」が口癖の医者には、検査をしてもらうように自分から言いましょう。

 最近の医療の傾向からすれば、患者さんの意向を最大限考慮するので、「○○が心配だから△△検査を受けたい」といわれて断る医師は少ないでしょう。

 以前ある病院で、毎週高血圧で病院にきているおばあちゃんの胃カメラ検査をしたら末期ガンでした。

 毎週のように高血圧の薬をもらいに、病院通いしていても、定期的に全身の検査をしてくれているとは限りません。患者さんはいつも病院にかかっているから、安心だと思いがちです。でも医者は血圧のことだけしかみてくれていないかもしれません。

 循環器の医師が、消化器の検査を長い間しなかったことについ気が付かなかったのです。死ぬ直前まで血圧が正常でも、自慢にもなにもなりません。

 そういうときに、自分で気がつけば、「先生、心電図ばっかりで、胃カメラを受けていないのですが大丈夫ですか?」といってみましょう。

 逆に医者任せにしなかったせいで、自分で自分の命を救った賢い患者さんを私は何人も知っています。

 先日も中年のご婦人が心配そうな顔をして私のところへやってきて「痛みほどではないが、胃のあたりに今までに感じなかった違和感がある。姉も胃ガンでなくなったので、胃ガンが心配です。先生みてください」と言うのです。いわれるままに胃カメラをすると、案の定、胃の真ん中あたりに早期の胃ガンがありました。まだ早期だったので、手術をして命拾いをしました。後日、「どうもありがとうございました。先生のおかげで命拾いしました」と言ってこられたが、私のおかげではありません。私はただ検査をしただけですし、この方は私がいなくてもほかの先生のところへ行ったでしょう。この方の命を救ったのは、賢明なこの方自身です。

 医者は、目の前にいる患者さんには全責任があります。「先生、下腹部に違和感がある」といわれただけで、賢明で慎重な医師であればちょっとした徴候も見逃さず、全力を挙げて助けようとするでしょう。ところが、そういう医者も白衣を脱いで病院の外に出ると、町でだれかが吐血をしてうずくまっていても、声をかけないかもしれません。自分の患者でなければ責任はないので、おせっかいはしないのです。

 私はただ検査をして、ガンを見つける技術者にはなりたくありません。医療講演をして、啓蒙し、病気の知識のない人や健康に関心のない人を救いたい。病院の外に出ておせっかいにもガンの怖さや検査の有効性を説いて、検査を受けてもらって命を助けることができたとき初めて、感謝されても胸を張れると思っています。

 

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 2章 大腸ガンではぜったい死なない
   (4)大腸内視鏡の上手な受け方

 

セカンド・オピニオンを聞く

 

 症状を訴えても検査をしてくれなかったり、医師の対応に不満があるときは、別な医師にセカンド・オピニオンを求めましょう。直訳すれば第二の意見、つまりは検査や治療に関して、主治医以外の医師にも意見を聞いてみようということです。

 体の不調を訴えたが検査をしてくれない、あるいは検査をしたが異常がないといわれた、しかし不調は続く。治療しているのにだんだん悪くなる。そういったとき、まず主治医に訴えます。

 それでも納得できなければ、別の医師に相談する方がいいと言うことです。このとき、なるだけ専門の医師がいいと思います。

 どんな医師も全くミスをしない人はいないでしょう。ミスから自分自身を守る手段がセカンド・オピニオンなのですが、ガンの場合なら、それぞれの地域のガンセンターで専門医からセカンド・オピニオンを聞くようにするのがいいと思います。大きな都市にはだいたいガンセンターがあります。もし、便利な場所にないようでしたらガンの専門医のいる病院でもかまいません。そこでもう一度医師の判断を仰ぎ、最初の医師の判断と違いがないか確認すればいいのです。

 はじめから検査や診察を受けた病院や医師を信頼しているのなら、わざわざセカンド・オピニオンを求める必要はありません。

 それと、第三、第四の病院へ行くのはやめましょう。次々と病院なり医師を変え、あまり多くの意見を聞くと、結局どれを信頼すればいいのかがわからなくなります。病院を次々に代えるワンダリング(さまよい歩く)≠ヘ医療不信につながりますので、避けていただきたいと思います。

 

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 2章 大腸ガンではぜったい死なない
   (4)大腸内視鏡の上手な受け方

 

症状があれば、大腸内視鏡検査を保険で受けられる

 

 一般に、四〇歳を過ぎるとガンをはじめとする成人病年齢と言われます。

 家族に対してももちろんのこと、社会的責任も大きくなってきている年代だといえるでしょう。症状が無くても、大腸内視鏡検査をはじめとして、ガン検査は定期的に行なっておくべきだと思います。

 この場合は、健康な人相手の検査ですから、全額自費になりますが、それでもかなり進行した大腸ガンが発見されて入院した場合の治療費、あるいは大腸ガンで死亡した場合の損失を考えてみてください。検査費用など、その損失に比べたらたかが知れています。

 ところが本人に症状があったり、ガン検診で引っかかったりした人は、当然保険が効きます。

 せっかく症状がでたのですから、保険で検査を受けるチャンスだというふうに考えることもできます。

 専門の医師は、症状を見逃すことはないでしょうから、大腸ガンの三大症状の便秘、腹痛、下血のうちどれか1つでもあれば医師にかかってみてください。きっと、検査に回してくれるでしょう。

 このとき、症状がでたらすぐ受けるのがいいでしょう。3年前からの便秘なら、下剤を出されて終わりかもしれません。今まで便秘などしたことがないのに最近急に便秘になったのなら検査をしなければなりません。それに、もし大腸ガンなら、症状がでて一刻を争うのですから、様子を見て大事に育てても。検査を受けるときは症状がでたらすぐです。

 それでもし、大腸ガンが早期で見つかったら、本当にめっけもんです。

 ついでに言いますと、ガン保険というものがあります。以前、ドックで検査を受けられた中年女性がポリープ切除の結果、早期ガンがありました。「ガンがあったが早期だから100%大丈夫です」というと、その女性は検査の前にガン保険に入っていたのでかいてほしいと書類を持ってきました。保険のことに詳しいのであとで聞くと保険外交員だったそうです。命拾いをした上にちゃっかりと保険料まで手に入れた。ガン保険には粘膜内癌に対して保険が下りないのもあるようです。大腸早期癌はたいていガンが粘膜内にとどまる粘膜内癌(上皮内癌)でもしこれなら内視鏡治療で100%助かります。手術も内視鏡で検査で見つかり次第切除でき、たいていの施設ではそのまま家に帰れます。家の人もまさか今日大腸ガンの手術をしたとは気が付かないででしょう。頻度が高すぎるせいか、治癒率が良すぎるせいか、ガン保険が下りないことがあります。ガン保険に入っている方は、検査の前に、契約書をみて「粘膜内癌(もしくは上皮内癌)は除く」と書かれていないか、見ておきましょう。

 

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   (4)大腸内視鏡の上手な受け方

 

医療法と情報公開について

 

 いい医者というのは、どうやって探したらいいのでしょう?

 患者にとって、病院選びや医者選びは決して簡単ではありません。

 雑誌の「名医特集」を見る?「名医」として単行本に紹介された医者を訪ねてみる?

 本来であれば、自分の家から行きやすい病院なり医院なりにいる医者の経歴や実績を調べて、いくつか別の人とも比較して、満足できそうな病院を訪ねたいところです。

 しかし、医療法によって、こうした大切な事実は、患者には一切知らされないシステムになっているのです。

 町の開業医の看板を見ればわかることですが、そこには病院名、院長名、診療科目、診療時間、所在地、電話番号しか書いてありません。院長はどんな経歴の人物なのか、どういう実績を持った医療スタッフがいるか、どの診療科目が得意なのかといった、患者サイドが知りたい情報は一切明記してはならないのです。

 患者さんにとって、こんな不都合、不利益なことがあるでしょうか。

 大腸内視鏡検査を受けたくても、設備があるかどうかもわからないのです。

 自動車を買うときに、カタログをみれば排気量や出力、車の大きさなどがわかります。そういうのを見比べてどれを購入するか決めていくと思います。

 心臓の手術を受けるときに、手術の成功率は病院ごとにかなり違いがあると思いますが、医療法の制限により公表されていません。医療関係者でないと知り得ないので、一般の人は知らされないで手術を受けるしかないでしょう。カタログをみないで車を買うようなものです。

 こと医療に関する限り、国民の「知る権利」はまるでないがしろにされているのです。

 なぜ、このようなことになってしまったのか──。

 国民保険制度は、全国同一の料金で全国どこでも同じレベルの医療が同一の料金で受けられることを建前とします。

 この建前が先行し、地域差や、医師個人の能力差などをいっさい無視した医療法が誕生したのです。

 腕に自信のある医者は、なるべく自分のことを宣伝したいと思うものです。しかし、腕に自信のない人は、逆に差を見せつけられては困るでしょう。実際には努力しない医者にぬるま湯的な環境を与える結果となっています。

 もし、都会に最新設備を擁した専門クリニックをつくってもそういうのは患者さんに知られてはいけないのです。

 大腸ガン専門クリニック、大腸内視鏡センターなどは、名前を付けるのもだめで、○○胃腸科クリニックとしか付けられません。

 したがって、医者の個人的な情報が患者側に知らされることも皆無に等しいのです。どの医者が優れた医者なのか、患者側には知らされないような形ができあがっているのです。

 

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 2章 大腸ガンではぜったい死なない
   (4)大腸内視鏡の上手な受け方

 

どこで検査を受けるか

 

 それでは、どこで検査を受ければいいのでしょう?日本では「大病院信仰・大学病院信仰」が根強いのですが、私はあまりお薦めしません。病院にはたくさん医師がおり、どの医師に当たるかによって全然違ってきますので、病院単位で評価するのは、難しいです。○○病院の△△先生は上手だと言うのならば、大丈夫ですが。

 「大学病院なら最新の設備もあるだろうし、医学知識の面でも心配ない。数多くの症例を扱っているのだから、経験も豊富だろう。それに、名医がいると聞いたこともある」そんなふうに思い込んで、大きな大学病院に行って長時間待ち続けているという人が少なくないようです。大学病院は、学生や研修医、あるいは若い医師が経験を積むための教育の場でもあります。教授がでてくるか、研修医がでてくるか、運で決まります。大学病院で、治療を受けるのなら、「日本の将来のために、若い医者を育てる」というぐらいの心持ちが必要かもしれません。

 それよりも、近くの医院に確かな腕の、いい先生がいるかもしれません。医療法の制限を受けないのは、口コミとインターネットです。今は、インターネットを見る、検査を受けた人の話を聞くなどして、少ない情報を拾うしかないのでしょう。「人の噂に蓋はできない」ですから、実際にかかった人の情報は有益です。インターネットは、事実上取り締まることが困難という理由で医療法の制限を越えた医療情報を発信することが認められています。

 いい病院を探すのに、インターネットを利用するのもいいでしょう。各病院のホームページをみると、どの分野が得意なのかわかります。医療訴訟のホームページなどもあります。患者さんの数が多い大きな病院はそれだけ不利ですが、よく出てくる病院は危ないかもしれません。

 「いい医者・いい病院」を紹介する本もたくさん出ていますが、あまり当てになりません。著者が現場をみて書いているのなら少しは当てになるのですが、だいたい有名な医師がいるとか、規模が大きいとかそういうデータでランキングされているからです。現場に行ってみないとわからない情報は書いてないのがなによりの証拠です。それよりは、自分で病院に入った印象の方がよっぽど当てになります。いい病院は、入った瞬間違います。職員が明るくてきびきびしていて全体としても明るい印象があります。これはもしかしたら、助かるなという印象を患者にも与える、そんなかんじの病院がいい病院です。

 

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 3章 まずは便秘の予防から
   (1)間違いだらけの便秘常識

 

大腸内視鏡検査を受ける前に

 

 大腸内視鏡検査を受けると、早期ガンがあっても100%見つかりますし、もし早期ガンがあってもほとんどはその場で内視鏡手術で取りきれます。施設によっては、日帰り手術で簡単な注意だけでその場で帰れるところも多くあります。ガンで日帰り手術ができるのは大腸くらいしかないのではないでしょうか?

 その大腸内視鏡を初めて受ける前にどういう風に受けたらいいのか、上手な受け方のコツなどをご紹介します。

 よく、検査前に「初めてなもので、心配です」と言われますが、検査を受けられる方は、過半数が初めての方で「みなさん、検査前にはそうおっしゃいますが、大丈夫ですよ」と声をかけます。たいていの人は検査後は「思っていたよりラクだった」とおっしゃいます。

 痛かったら危険です。痛いのに黙っていて我慢するのはよくありません。腸を突き破られるかもしれません。痛いときは「痛い」といって良いのです。痛みは腸穿孔の前のサインでもありますので、医師につたえておいた方がいいのです。

 検査の前に麻酔をかけるかどうか聞いてみましょう。特に希望もしていないのに全員にかけるところは注意しましょう。未熟な技術を麻酔でカバーしている可能性があります。

 麻酔なしで、苦痛なく検査しますが、もしどうしても麻酔をご希望ならいたします。

 大腸内視鏡はほとんど予約制です。大量の出血や大腸の捻転(ねじれること)などで飛び込みでやることはありますが、まれです。検査の前に医師が診察をします。大腸ガンの3大症状である腹痛、便秘、出血のうち、1つでもあれば大腸ガンであるといけませんから、大腸ガン疑いという病名が付いて保険での検査となります。また、大腸ガン検診(便の検査)で陽性になった人ももちろん保険が適応になります。便の検査は目に見えないほどのごくわずかな出血が無いかを調べる検査です。1回法、2回法、3回法とありますが回数が多いほど正確な結果が得られます。大腸ガンがあってもいつも出血するわけではなく、時々出血することがあるだけなので、3回やって1回でも出血の反応があれば全体としての判定は陽性です。保険が効くときは保険の種類にもよりますが負担はだいたい数千円くらいでしょう。ポリープがあって切り取る手術をした場合は2万円くらいかかることがあります。検査もなく症状も全くない人が、ただ健康診断で検査にきたときは自費になることがあります。その場合はだいたい5−10万円くらいだと思いますが、施設によって違います。

 検査に先立って、簡単な血液の検査を行います。主に感染症がないかをチェックします。もし、感染症があれば、検査はその日の最終に回されることがあります。

 検査の前日は特別な食事を渡されることがあります。渡されないときも、夕食は軽めの方がいいでしょう。できればお粥、素うどんなどを午後9時前にとって、それ以降は水以外飲まないようにしましょう。普段から便秘の人は、夜寝る前に下剤を飲んでおくといいでしょう。検査当日の朝に排便があると、腸洗浄剤が飲み易くなります。

 

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 2章 大腸ガンではぜったい死なない
   (4)大腸内視鏡の上手な受け方

 

検査の前の腸洗浄

 

 朝、病院に着いたら、腸をきれいにするための腸洗浄液(特別な下剤)を飲んでもらいます。人によってのむ量に違いがありますが、だいたい2リットルくらい飲みます。飲むスピードは速く飲んだ方がきれいになるのですが、飲めない人は自分のペースでゆっくり飲んでも大丈夫です。だいたい、2時間から4時間で腸がきれいになります。

 途中、もし気分が悪くなったら少し休みます。

 検査が終わった患者さんから「先生、検査はつらくなかったけどその前の下剤がね」と言われることがあります。普段からビールをがんがん飲んで鍛えていらっしゃる方はいいのですが、高齢者のかたでやせていて、普段から小食の方にはちょっときついようです。

 ただ、ここのところをきちんとやっておかないと、検査のときに大腸の中にまだ便が残っていると、きちんと検査できないばかりか、スコープを奥に入れるのが難しくなり、検査自体が苦痛を伴うことになり、また、小さなガンが便に隠れて見逃しやすくなります。ポリープを切り取るときに、便が絡むとうまく切り取れなかったり、切り取るときに電気メスを使いますのでまれには腐敗ガスに引火して腸内でガス爆発が起こることがあります。

 こういった危険をさせるために、ご理解いただいて飲んでいただくのです。

 最初、1回目の排便があるまでは飲んだ分が全部お腹にたまるのでお腹が張って苦しくなりますが、一度硬いのが出ればその後は水状のものが連続して出てくるようになり、だんだん楽になってきます。

 実は、この腸洗浄は検査の前の準備だけでなく、治療もかねているのです。腸をきれいにすること自体が大腸ガンや便秘の予防になるのです。詳しくは後で腸洗浄のところで書きますが、普段大腸の宿便はだいたい1キログラムもあり、その中には100兆もの菌がいます。赤ちゃんのときは善玉菌ですが年を取るにつれてだんだん悪玉菌に変わってきます。悪玉菌の出すガスや排泄する物質は有毒で、ガンの原因になります。それを全部出し切って、きれいになるのはこのときしかありません。検査後、すぐに善玉菌の代表であるビフィズス菌を飲んでおけば大腸の細菌を一気に変えるチャンスなのです。

 腸洗浄剤には2種類あります。一つはまるでポリバケツを溶かしたようなにおいの液体。一飲みして人間が飲み物と認めないような味のものです。

 もう一つははポカリスエット(スポーツ飲料)の味。ふつうの飲み物の味です。

 私が実際両方使ってみた感じでは、両者の間に洗浄効果に明らかな差はみられませんでした。

 前者を使っている病院で、検査をしている医師に下剤の味を尋ねたら飲んだことがないから知らないという。みんなを集めて試飲会をしたら、翌日から変えてもらえました。

 検査を受けようとしたが、下剤が飲めなくて中止したことのある人は、もう一度お考えください。

 下剤を少しでもラクに飲むコツをお教えしましょう。

 前日に繊維分を多く摂ると便の量が増えるのできつくなります。前日の夜は、消化のよいもの(うどん・お粥など)を少量にする。夜9時以降は水以外飲まないようにしましょう。

 便秘気味の人は寝る前に市販の下剤を1〜2錠飲んで寝る。

 当日、下剤を飲んでいて気分が悪くなりそうだったら早めに、腸の動きをよくする作用がある吐き気止め(市販の乗り物酔い止めで代用できます)を1〜2錠もらって飲む。

 検査の日までしばらく便秘で、当日も下剤を飲んでも全然でず、おなかが張ってきたら、早めに看護婦さんに言って、浣腸をしてもらいましょう。その後はらくにでるようになります。

 

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その便秘こそ大腸ガンの黄信号
 3章 まずは便秘の予防から
   (1)間違いだらけの便秘常識

 

若い女性に大流行の「便秘」の理由

 

 20代の女性の1/3が便秘だというアンケートがあります。「コーラック」はそういう人の常備薬です。どうして、便秘が増えたのでしょうか?

 それは大腸ガンの増加と深い関係があるのです。大腸ガンの増加の原因は、食生活の変化、つまり高脂肪食、低繊維食が原因でした。実は便秘も同じ理由によるものなのです。

 脂肪は便になりませんから、便の量が少なくなります。それに加えてダイエットブームです。よけいに便の量が減り、腸は長いままで、便秘になるわけです。これだけではありません。そういう食事は、腸内細菌叢をビフィズス菌から腐敗菌へ変化させます。毒性の物質を産生し、腸の動きを悪くしたり、ガスがたまっておなかが張ったりして、便秘を悪化させます。

 他にも、社会的な理由があります。女性に社会進出で働く女性が増えました。朝ゆっくりトイレに行く時間がないとか、外ではなかなかトイレに行けないとかで出すタイミングを失います。また、腸は副交感神経で動きますので、仕事中緊張状態が続くと、腸は動かなくなります。

 便秘の原因は、大腸ガン増加の原因と一致することと、異物を長期間大腸にため込むため便秘自体が、大腸ガンの原因になることを考えると、将来の大腸ガンの増加が心配です。

 大腸ガンの増加防止のためにも便秘を予防にもっと真剣に取り組まなくてはなりません。

 

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 3章 まずは便秘の予防から
   (1)間違いだらけの便秘常識

 

大腸はなんのためにある?

 

 私の便秘外来に若い女性がたくさんきます。その人たちの悩みを聞くと便秘の悩みは大変深い。

 便がでないと一日気になって何もできない。生活が便によって支配されてしまうのです。

 こんなに苦しむなら「手術で大腸を切り取ってください」という人もいるくらいです。

 大腸は何のためにあるのでしょうか?

 食物は、小腸で栄養を吸収され、食物の残滓は大腸に行きます。

 そこで、水分を吸収され、便となって排泄されるのです。

 大腸の目的は、食物の残滓から水分を吸収するとともに、便量を減らし便をある程度の時間貯めておける状態にするということなのです。

 要するに、大腸は食物残滓の貯蔵庫であるわけです。

 こう言うと、大腸というのは大したことのない器官であるかのように思われるかもしれませんが、そんなことはありません。

 大腸の名誉のために言っておけば、大腸がなければ、われわれ人間は文明的な生活はできなかったに違いないのです。

 大腸が無ければ便を溜めることができず、そこら辺じゅうに垂れ流していては室内の生活は不可能でしょう。

 どんな生き物にも小腸はありますが、常時垂れ流しの下等生物には大腸はありません。

 大腸というのは基本的に便を溜めるための器官なのですから、大腸内には常時便があります。大腸内に貯まっている便を称して「宿便」と呼ぶことがあります。

 大腸に便が長時間滞留しているほど便の状態は悪化します。すなわち、腐敗菌が増大し、大腸の中でどんどん腐敗ガスや有害物質を産生します。その結果、お腹が張ったり、腹痛といった症状が起こり、便秘がひどくなるだけでなく、大腸ガンになりやすい環境を作ります。

 便通は通常一日一回以上あるものですが、もともと個人差が大きく、重度の便秘症で一カ月も便通がないという人も存在します。3日に1回でも、定期的にでて、その他の症状がなければ治療対象になりませんが、2日に1回でも症状が伴い、生活に不便があれば積極的に治療します。

 

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   (1)間違いだらけの便秘常識

 

便秘治療の第一歩とは?

 

 大腸の中には多数の腸内細菌がいます。それは本来、人間にとって不必要な栄養分をさらに大腸の中で分解し、便を長く大腸内に溜めておくことができるように協力してくれるのです。つまり共存の関係にあります。

 その細菌の分布は、腸内細菌層叢、またはお花畑にたとえて腸内フローラといいます。

 腸内細菌は、善玉菌のビフィズス菌とか、悪玉菌のウェルシュ菌、大腸菌などがよく知られています。ウェルシュ菌は栄養を分解するときに、人間にとって有害な物質を産生するので悪玉菌と呼ばれます。悪玉菌は、腐敗菌、ガス産生菌などとも呼ばれます。

 この腸内細菌は、大腸内に一〇〇兆個ほどいます。

 地球上の全人口が約五〇兆、人体を形成している細胞の総数が約六〇兆個であることを考えても、どれほど途方もない数かおわかりいただけるでしょう。

 一〇〇兆個と言われてもなかなか見当がつかないでしょうが、仮に腸内細菌一個の直径を一ミクロン(一〇〇〇分の一ミリメートル)として細菌を一列に並べると、その長さはなんと一〇万キロメートル(地球二周半)にも達する計算になります。

 この一〇〇兆個ものフローラの重量は、約一キロ余り。赤ちゃんの出生直後は無菌状態ですが、母乳の摂取するころにはビフィズス菌が腸に達し、しばらくはビフィズス菌優位の理想的なフローラが保たれるのですが、やがて肉食が中心になるとウェルシュ菌や大腸菌をはじめとする悪玉菌が多くなり、勢力争いを続けながら、死ぬまでずっと人間とともに生き続けるのです。

 悪玉菌が出す有毒な物質は、腸の動きを悪くして便秘を助長したり、ガスを出して、おなかが張ったり、痛くなったりするほかに、大腸ガンの原因にもなります。

 腸の中の細菌を善玉菌優位にして、きれいな環境にしておくことは便秘治療の第一歩であり、同時に大腸ガン予防の第一歩でもあります。

 

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   (1)間違いだらけの便秘常識

 

便秘薬は便秘を悪化する──使い続けると100錠飲んでも効かなくなる

 

 私たち専門医も、患者さんを診断した後、しばしば便秘薬を処方します。

 実は、専門医が処方する便秘薬と、どこでも手軽に買える市販の便秘薬の成分はほとんど変わらないのですが、医師は患者さんの便秘状態を的確に把握したうえで、適切な指示とともに処方をしています。

 けれども、自分で市販の便秘薬を買って日常的に飲んでいる人は、やがて、定められた量をはるかにオーバーした大量の便秘薬を平気で飲むようになってしまいます。薬局で自由に買える便秘薬だからと、医師から処方される薬より気軽に考える人が多いのですが、本当はもっと注意して使わないと危険なものなのです。

 内服する下剤には、便のボリュームを多くして便を出させるタイプの容量下剤と大腸粘膜を刺激して運動を起こさせる刺激系下剤の二つがあります。

 便の量を増やすタイプというのは、大腸に便から水分を吸収させないタイプということです。そもそも、大腸というのは便から水分を吸収して便の量を少なくし、一定時間溜めておく便の貯蔵庫なわけですが、便から水分を吸収できなければ、便はいつまでも大きいままで、あとからあとから増えてくるので、排便せざるをえなくなるというわけです。

 原理としては、下剤の中にマグネシウムのような電解質がたくさん含まれていて、浸透圧の関係で、大腸が便の水分を奪えなくしてしまう仕組みです。

 効き方は穏やかですし、便はいつまでも水分を含んだままで柔らかいわけですが、逆におなかが張ることがあり、あまり人気がありません。

 市販されている便秘薬は漢方を含めて、90%以上が大腸の腸管刺激剤です。

 困るのは、人間というのは必ず刺激に慣れてしまう生き物だということです。

 最初は飲めばすぐに効いた刺激薬も、継続的に使用しているうちに必ず耐性≠ェ生まれてだんだん刺激に馴れてしまいます。最初は効いていた便秘薬が効かなくなり、どんどん強い刺激を与えなければ便意を感じなくなってしまうのです。はじめはときどき使っていたものがだんだん毎日使うようになり(習慣性)、そのうちに下剤がないと自力では出せなくなります(依存性)。

 それでひどい場合には、一度に30錠、あるいは一〇〇錠という信じられないような量を飲んでいる人がいます。

 あまりに増えてきて怖くなってやっと医師のところへきます。

 下剤の乱用により、ひどい低カリウム血症でした。このためにさらに腸が動かなくなり、便秘をひどくしていたのです。

 しかも、下剤の強い刺激にならされると、なかなか自分の自律神経の刺激では動かなくなっています。薬の刺激をやめて時間をかけて自力で出す習慣を取り戻さなくてはなりません。

 

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浣腸は直腸の痙攣薬

 

 ご存じのように、下剤には、先述した経口の便秘薬だけでなく、肛門からグリセリンを直腸に入れる浣腸もあります。

 よく使われるイチジク浣腸は、腸を痙攣させて強制的に排便させる下剤です。

 刺激系の飲み薬は腸全体を痙攣させるのですが、浣腸は直腸とS状結腸に限局して作用するため、効果が早く出るのが特徴です。ただし、人によってはかなり強い腹痛を感じる人もいます。

 慢性化した便秘に対して浣腸を常用する人もいるようですが、飲み薬同様、濫用すれば腸への悪影響は免れませんので、極力便秘薬や浣腸に頼らずに、自力で心地よい排便ができるよう、毎日の生活習慣を変える努力をまずはしていただきたいものです。

 

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大腸黒皮症(大腸メラノーシス)

 

 大腸の粘膜は意外にもきれいなピンク色です。大腸の検査を初めて受ける人は、自分の腸の中を見て、予想と違ってあまりにきれいなので、たいてい驚きます。ところがセンナ、大黄、アロエ等の大腸刺激剤を長く飲んでいると、大腸粘膜にメラニン色素が沈着して大腸が黒ずんできます。検査をやっていて、これに出くわすと下剤を長く飲んでいることが分かります。今のところ、多少見栄えが悪い意外、これが直接体に害を及ぼすことはないと思われています。また、下剤をやめれば次第に回復するといわれています。

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コロコロ便

 

 便は、小腸からきたときはまだ粥上で軟らかいのですが、大腸を通過中に水分が失われてだんだん硬くなってきます。肛門から30cmあたりのS状結腸にさしかかるとき、一番折れ曲がりの強いところにさしかかります。おそらくここが便の通りの一番悪いところです。どうしても便がでないと、下剤を飲みます。そうすると大腸が痙攣し、便を壊します。コロコロに壊れた便はやっとS状結腸を通過し、直腸に達します。痙攣が起こるとき、便のあった、左下腹部がたいてい痛みます。

 便が通過するとウソのように痛みが消えます。腸の動きが良すぎてこのあと下痢になることもあります。

 これが一番よくある便秘のパターンです。

 やせた人では、そこに便があるのがおなかからさわれる人がいます。それを手で押し出すので、おなかのそこの部分の皮膚が押しすぎて変色している人がいます。

 この場所の便秘が、虚血性腸炎といって長い便秘のあとの排便後の大量出血の原因となることがあります。

 

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   (1)間違いだらけの便秘常識

 

便秘の後で大量の出血−虚血性腸炎

 

 昔は、高齢者の病気でした。今は、若い女性に多いです。長い便秘の後、やっと出たと思ったら出血してお腹が痛む。大腸過長症の人や腸管走行異常のある人は、S状結腸の屈曲部を便が通りにくいので、その前の下行結腸で便が停滞する。便が溜まりすぎると腸の血管を圧迫して血行が悪くなり、大腸の粘膜が潰瘍化する。その後、どっと便が出て急に血行がよくなると潰瘍化した粘膜から大量に出血する。潰瘍が治るまで腸を安静にしなければいけないので、入院して治療します。

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痙攣性便秘

 

 ひとくちに便秘といっても、症状によっていくつかの種類に分けられます。

 やや専門的になりますが、大きく分けると「器質性便秘」と「機能性便秘」の二つに分類できます。

 「器質性便秘」というのは、大腸ガン、大腸ポリープ、子宮筋腫などの病気によって腸管が狭くなり、便が通りにくくなっている状態で、これに対して「機能性便秘」というのは、大腸の運動機能が低下し、うまく便を送り出せないために起こる便秘です。

 きついダイエットを続けていたら、それまで便秘ではなかったのに便秘になってしまったというような人は、この「機能性便秘」に含まれます。

 機能性便秘は、さらに「弛緩性便秘」と「痙攣性便秘」に分類されます。

 「弛緩性便秘」というのは、大腸の筋肉の緩みや収縮力の低下が原因で、腸内の蠕動運動がうまくできないために便の通過時間が長くなり、それで便秘症状が起きます。

 一般的には筋力の衰えた高齢者に多いのですが、先ほど述べたように、最近は過度のダイエットで痩せすぎてしまった人にも見受けられます。

 「痙攣性便秘」は精神的な要因で起こる便秘です。過重なストレスがかかると、腸も緊張状態に陥り、動きが良すぎて痙攣してしまい、便を押し進めるゆっくりとした蠕動運動が妨げられることがあり、それが原因で排便に困難をきたすのです。比較的若い人に多く、不規則な生活や環境変化などに伴うストレスによって起きやすいようです。

 この症状が高じると、近年急増している「過敏性腸症候群」ということになります。

 痙攣生便秘は、弛緩性便秘と全く逆で、腸の動きが良すぎるために逆に便がでません。治療は、腸の痙攣を抑える薬で、逆にふつうの便秘薬である、腸管刺激剤を投与すると悪くなります。

 

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   (1)間違いだらけの便秘常識

 

便秘と下痢を繰り返す「過敏性腸症候群」

 

 この疾患の患者さんを検査してみると、大腸に炎症があるわけでもなく、腸内の粘膜も正常なままです。ただ、腸が精神状態の変化に影響を受けて過敏に動くために起きる症状で、言ってみれば「胃痙攣の大腸版」という感じです。

 症状は、下痢と便秘を繰り返します。

 過敏性腸症候群というのは痙攣性の便秘で、腸の動きが良すぎて腸の中で順に便を送っていく正しい蠕動運動が行なわれず、ただ痙攣しているだけなのです。

 ただ腸が痙攣しているだけで、便が前に送られることがないということは、便はどんどん固くなり、次にはその場でこなごなに壊れてダーッと動いた後、止まってしまって便秘になります。

 逆に、固い便が出た後は、腸の痙攣に伴って、まだ大腸内で吸収されない液体が凄い勢いで出るので、下痢になります。

 原因は、過度のストレスが引き起こすと考えられています。

 強いストレスを受けて自律神経の機能が乱れ、下痢をしたり、便秘になったりします。

 したがって、通勤時の電車内とか会議中など、何らかのストレスがかかったときにこの症状を起こしやすいのです。

 もともと腸の動きが良すぎるための便秘なので、市販の便秘薬である腸管刺激薬はむしろ症状を悪化させます。本人としては原因がよくわからないまま、下痢と便秘を繰り返すようになり、いっそう不安感が強くなります。

 過敏性腸症候群の一番の問題は、安易に「過敏性腸症候群」との診断が行なわれていることです。

 つまり、下痢や便秘を繰り返す人に対して検査もしないで診断してしまうのです。

 本来、大腸内視鏡検査などを行ない、大腸ガンや慢性的な大腸の炎症性疾患などの病気がないことが確認されたうえで初めて診断されるものでなければなりません。

 頻度的に見れば、大腸ガンや慢性腸炎症性疾患などよりずっと多いですが、しかし、医者は占い師でもなければ、予想屋でもありません。ただ当てればいいというものではないのです。頻度が少なくてもガンを見落とせば罪は重い。

 大腸ガンも便秘と下痢を繰り返すことがあります。症状だけからは区別できません。大腸ガンでないことを確認して、初めて過敏性腸症候群と診断して欲しいものです。

 

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 3章 まずは便秘の予防から
   (2)「ダイエット便秘」が急増中

 

女性の三人に一人は便秘──増加中の「ダイエット便秘」

 

 便秘は大腸ガンのリスク・ファクターですが、何と言っても便秘といえば女性たちでしょう。大雑把に言って、女性の三人に一人は便秘がちだといいますが、特に、最近は「ダイエット便秘」に悩む若い女性たちが増えています。

 日本女性の「スリム願望」は、医師から見ると異常なほど強く、肥満でない女性、というより、すでにかなりスリムな女性たちまで競ってダイエットに励んでいるのが現状です。

 ところが、過度のダイエットや間違ったダイエットは、多くの弊害を招きます。

 ダイエットで食事の量を減らすと、便の量も減るので便秘になりやすい。お通じが出なくなると腸が汚れやすくなる。そうしてますます便秘になる。

 特に便秘ではなかった人が、ダイエットをきっかけに頑固な便秘になり、そのせいでひどい肌荒れが起きたり、頭痛その他の不快な症状に悩まされるようになったという相談が最近目立ちます。

 私は、これを「ダイエット便秘」と名づけています。

 この年代の人がガン年齢にさしかかると日本人の大腸ガンが増えてこないか心配です。

 

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   (2)「ダイエット便秘」が急増中

 

痩せると腸が伸びて便秘になる?

 

 あまり知られていませんが、人間の腸は、ダイエットすることによって伸びてしまうのです。腸は、ハウストラというアコーディオンのジャバラのような構造になっていて、腸壁の外側(ジャバラの谷間の部分)には脂肪が着いています。

 ところが、痩せて脂肪が減ってくると、この脂肪によって作られていたジャバラの谷間の部分がなくなって、全体が長く伸びきってしまうのです。

 腹部は痩せて小さくなっているのに、腸はどんどん長くなってしまうのですから、大腸はお腹の中で折りたたまれた状態となります。それに、腸の長さが長くなれば、それだけ便は長時間滞留しますから、ますます便の水分が吸収されて、便通が悪くなるのも当然の結果でしょう。

 やせている人には胃下垂が多いと言われますが、それは、内臓を支えるべき腹直筋が、痩せすぎることによって胃を支えていられなくなったことによって腹腔の下まで下がるわけで、胃下垂に伴って、腸も下がってしまいます。

 大腸は右腹にある「上行結腸」と、左腹の「下降結腸」の部分は固定されていますが、横に通っている「横行結腸」は固定されていないので、そこが腹腔の下部までグッと垂れ下がります。これが腸下垂です。

 腸下垂が起きることによって、便秘はますますひどくなり、やがて下腹部が張ったり痛んだりするようになります。やせている人で食後、お腹の真ん中あたりがひどく張り、痛見もあるようだったら、腸下垂を疑うべきです。

 

 ★図版(ハウストラの脂肪の有無による変化と、腸下垂イラスト)

 

 このように女性の便秘の原因は、第一にダイエットによる食事の量の減少による便の量の減少、第二は、ダイエットと腸が伸びてしまったことに伴う腸下垂。そして第三の原因として挙げられるのが、ダイエットのために下剤を濫用したことによって起こる便秘です。

 「ダイエットでスリムな体型になりたい」と熱望する女性たちの中には、便秘そのものを極端に恐れる人も少なくありません。

 何より「余計なものが詰まっているお腹をへこませたい。膨らませておきたくない」「便さえ出れば、その分体重が減る」と強く思っているからです。

 そこで、大量に下剤を飲むのです。これが便秘をひどくすることは前に述べました。

 

 

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   (2)「ダイエット便秘」が急増中

 

ダイエットのやりすぎで、必要な腸の筋肉までなくなる

 

 私は、こうしたダイエット便秘≠フ女性を何十人も診察していますが、彼女たちの中には、過度なダイエットの結果、全身の筋肉量が減ってしまって筋力がひどく低下している人がいます。便を自力で押し出すための腸の筋力や腹圧をかける腹筋も弱くなります。

 彼女たちは異口同音に「便がもうすぐ出そうなところまで来ているのに、自分の力では出せない」と訴えます。

 だいたい、人の便というのは、おへその左側のやや下に位置するS状結腸あたりで止まっているものですが、腸の筋肉まで痩せてしまっている人は、ここにある便を直腸から外に押し出す筋力さえありません。本人も、腸が腸自身の力で便を押し出すことができないことを自覚していますから、このS状結腸のところにある便を、お腹の上から手と指でギューッと強く押し出すのです。

 そんなことができるのか、と思われる方もおいででしょうが、ものすごく痩せている人は、お腹の上から容易に結腸にある便を触ることができます。

 いつも指で便を押して排便している人たちは、おへその左下あたりを強く押してばかりいますから、その部分の皮膚が変色してしまっています。それは、見ていて本当に気の毒なほどです。

 さらにひどい便秘の人は、自分で摘便する人もいます。摘便というのは、乾燥しきってコチコチに固まってしまった直腸の便を指でほじくり出す作業です。これは通常は、老化に伴って筋力が低下して自分で排便ができない老人に対して看護婦さんが行なっているケアの一つです。

 若い人がそうしないかぎり排便できないというのは、過度なダイエットのおかげで、筋力が老人たちと同じくらいまで低下してしまったということでしょう。

 とても悲惨な事実です。

 

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医者でもあまり知らない、カリウム不足による便秘

 

 長期間ダイエットをしている人や、下剤を連用している人の中に低カリウム血症の人がいます。血清カリウム血が3.0以下の人はカリウムが低いせいで便秘になっている可能性があります。

 こういう人の便秘に、下剤を投与するとますます悪化してしまいます。もし不足していたら、経口カリウム剤を適量飲むべきです。経口カリウム剤は、腎臓の病気がない限り、飲み過ぎても尿にでるだけなので、心配ありません。この疑いのある人は水を飲む代わりに、ポカリスエットを飲むようにする方法もあります。

 

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朝の一杯の水から

 

 ダイエット中、空腹をがまんするのはしょうがないですが、のどの渇きはがまんしてはいけません。

 便がでなくなってしまします。

 ダイエット中は食べる量が減るため、食べ物の中に入っている水分も少なくなります。その分意識的に水分を取らないといけません。脱水状態だと、大腸は便から一生懸命水分を吸収するので、便は乾燥してカチコチになります。

 特に夜間は水分が失われるので、朝の一日の水の補給は便秘予防に大切です。

 また朝、空腹の胃に食べ物が入ると、その刺激が自律神経を通して大腸に伝わるからです。これを、胃・結腸反射と言います。大腸も目覚め、自然と便を前に送り出す蠕動運動を開始します。

 こうして一杯の水を飲むだけで、排便はずっと楽になってきます。

 

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食べないのにおなかが張る

 

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食物繊維はどうやってとる?

 

 大腸にとっての救世主≠ヘ、なんといっても食物繊維です。

 便秘予防にもなるし、大腸ガンの予防にもなります。腸内を雑巾掛けしてきれいにしてくれる効果もあります。

 ところが食物繊維は一日に二〇〜二五グラム取る必要がありますが、実際は年々低下を続けており、現在では一五グラム程度まで減少してしまっています。

 ダイエットをしている人は、食物繊維を摂るためにサラダをよく食べているという人が多いのですが、意外と、レタスやキャベツ、サラダ菜といった葉もの野菜は、食物繊維が少ないのです。

 食物繊維が多いのは、一に海藻、二にキノコ類、そして三に根菜類と覚えておいてください。

 食物繊維をたくさん摂ることが、便秘になぜ効果的なのかというと、一つには、食物繊維は消化されずに腸まで届くため、便量を増やし、腸壁に物理的な刺激を与えて腸の蠕動運動を促す作用がある、つまり排便を促しやすいわけです。

 そして、「腸内に便を溜めない」というだけでなく、食物繊維は、腸内で発生しているさまざまな毒性物質を吸着・吸収し、便とともに排出してくれるという、たいへんありがたい働きもしてくれます。つまり、腸の中をきれいに掃除して、便といっしょに出ていってくれるわけです。

 その食物繊維を多く含む食品として、まず第一に食べていただきたいのが海藻類です。味噌汁の具や酢の物だけでなく、サラダにも海藻類を混ぜるなどしてたくさん食べてください。次に、キノコ類。これもたいへん繊維を多く含む食品なのです。

 また、根菜類。根菜類というのは、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモなどの芋類をはじめ、ゴボウ、ダイコン、ハス、タケノコなど、根ものの野菜全般です。

 しかし根菜類は、ややカロリーが高いですから、食べ過ぎにはご注意を。

 

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サプリメント(栄養補助食品)を利用しましょう

 

 ダイエット中は食事制限をしますので必要な栄養素も不足しがちです。カロリーを足らずに栄養素を補給するために積極的にサプリメントを利用しましょう。

 必要なものはビタミンとミネラル、食物繊維です。キトサンなどダイエトと便秘に両方に効果のあるものもあります。

 特に電解質は、しっかり補給しましょう。水の代わりにポカリスエットを飲むなど、工夫しましょう。

 食物繊維も、食事で取るのが難しいなら、お手軽なサプリメントを利用しましょう。

 脂肪を制限しすぎると脂溶性ビタミンが不足します。ビタミンD,A,K,Eは、サプリメントを利用して取りましょう。

 サプリメントは薬局やコンビニで手軽に手に入ります。

 

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やせ薬

 

 やせ薬のうち、食欲抑制剤「サノレックス」は、便秘になる方が多かったですが、脂肪吸収阻害剤の「ザイバン」はむしろ下痢になるので、便秘の多い日本人には向いている薬だと思います。

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   (3)難治性の便秘を治す「αループ法」

 

内視鏡検査後、便秘がなおった!

 

 ヒトの腸の形には「αループ」と「逆αループ」があり、「逆αループ」の腸の人は、まず例外なく頑固な便秘だということ、そして、その便秘は苦もなく解消できるということに私が初めて気付いたのは、ある偶然からでした。

 当時、私は全国の徳州会病院を飛び回り、連日猛烈なハードスケジュールで大腸内視鏡検査をこなしていました。

 一日に二〇件前後。内視鏡検査の専門家なら、この数を聞いて驚かない人はいないはずです。まるで千本ノックのような状態なのですが、一人でも多くの人の検査を行なうということは、誰あろう私自身が最も強く望んだったのです。

 腸の形は一人ひとり違いますから、集中力を高め、細心の注意を払って、あらゆるテクニックを動員しながら大腸ファイバーを操作し、どんなわずかなポリープや病変も見逃すまいと目を皿のようにしてモニターを見つめます。もちろん絶対に事故など起こさないように、ということにも気を遣いながら。

 内視鏡の専門医で相当な腕利きでも、連日一〇人の検査をこなせるという人はそれほど何人もいないはずです。

 私のテクニックは、徳洲会病院での千本ノックのような検査で磨かれ、その凝縮された経験のおかげで、ファイバースコープの先端から水を出しながら行なう「水浸法」とそのための装置開発、また独自の「プル法」が確立できたのだと感謝しています。

 凝縮されたそれを五年間あまりで、私の経験数はアッという間に一万件を超えていました。当時も今も、短期間にこれほど膨大な内視鏡検査を行なった医者はいないのではないかと思います。この濃密な経験が、私に「αループ」と「逆αループ」の腸があることを教えてくれたのです。

 内視鏡検査のあと、結果を聞きに来た患者さんにこんなことを言われました。

 「先生、検査をしていただいて以来、あれほど頑固だった私の便秘が、なぜかすっかり治ってしまいました。毎日調子がよくって。それにしても、子どもの頃からずっと便秘症だったのに、いったいどうしてなんでしょうね。ともかく本当にありがとうございます」

 最初にそんな会話をした時には、「ああ、それはよかったですね」と答えただけで、何も気づきませんでした。私も、「そういうこともあるのかな」という程度で聞き流していたのです。

 ところが、全く同じようなことを言う人が、次から次へと出てきたのです。

 「生まれつき便秘だったのが、すっかり治ったんですよ」

 「先生にポリープを取ってもらったせいなんですかね、お通じがすっかりよくなりまして、本当に毎日晴れ晴れとしています」

 そんな人たちが連日のように現われていたある日のこと。

 私は突然「なんだ、そうだったのか!」と気づいたのです。

 日本全国を飛び回りながら、月に二〇〇人以上診ることも珍しくないほどの密度で検査数をこなしたので、そうした気づきがあったのだろうと思います。

 こういう話を聞くたびに、だんだん確信を持つようになりました。

 ポリープを取る取らないなんて関係ない。便秘が治ったのは、内視鏡検査の終了時に、私が腸の形を整えたからだ!と気付いたのです。

 

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その便秘こそ大腸ガンの黄信号
 3章 まずは便秘の予防から
   (3)難治性の便秘を治す「αループ法」

 

内視鏡を入れやすい人と入れにくい人

 

 まず、すごく単純な話からすると、内視鏡のスコープが通りにくい人と通りにくい人の二種類が存在します。

 一般に、スコープが通りにくい人は日頃から便秘がちで、通りやすい人は下痢気味です。

 ビールばかり飲んでいてでっぷりした中年男性には下痢気味の人が多く、内視鏡がすんなり入るので、検査は楽です。一方、小柄で痩せている人には便秘が多く、こちらは内視鏡を入れるのにひと苦労します。

 そうしたタイプとは別に、明らかに、内視鏡を入れやすいタイプの腸を持つ人と、入れにくいタイプの腸を持つ人がいるのです。

 結論から言うと、腹腔の中でS状結腸の部分が「α」の形でループになっている人というのは内視鏡を入れやすく、αという文字が鏡文字のようにひっくり返った「逆α」の形になっている人には、内視鏡がとても入れにくいのです。

 ということは、逆αループの人の腸は、大腸ファイバーを抜く際にαループの形に直せば便秘も解消するのではないか。

 前にも言いましたが、大腸はお腹の中で全部がしっかりと固定されているわけではありません。上行結腸と下降結腸の二カ所だけは固定されていますが、他の横行結腸とかS状結腸などは、腹腔の中で宙ぶらりんのようになっています。極端なことを言うと、ジャバラのようにグニャグニャで伸縮自在の腸は、内視鏡の操作によって自由に形や向きを変えられますから、最後にαループの形に戻してやればいいのです。

 ある程度経験を積んだ内視鏡検査医であれば、技術的には難しいことではありません。

 逆αループからαループに変わるだけで、どんなに努力して食物繊維を食べても治らなかった頑固な便秘が解消してしまうというのは、驚くべきことです。

 αと逆αの絵

 

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 3章 まずは便秘の予防から
   (3)難治性の便秘を治す「αループ法」

 

大腸過長症

 

 一番多いのは、大腸過長症です。

 昔から日本人は芋類、豆類を多く摂ってきたので、食物繊維の摂取量が多かく、そのため便の量も多かったのです。戦後、アメリカ人の医師が日本人を見てその大きさにびっくりしたという話もあります。たくさんの便をため込むことができるように腸が長くできていたのだが、ここへきてたった20年から30年で食事内容が急に変わってしまい、便の量はずっと少なくなっりました。でも、腸の長さはそんなに急には変わりません。しばらくは便の量に対して、大腸のため込む能力が高い状態が続くので日本人は基本的に便秘が続くでしょう。また、発ガン物質をため込みすぎると大腸ガンの原因となることもあります。

 やせた人に多いです。やせると腸の長さが伸びるのです。腸はハウストラといって、ソーセージの節のようにだんだんになっています。腸の外側に脂肪がたくさん付くとアコーディオンを畳んだように縮んでくるのです。ビールをよく飲む中年太りの男性は腸が短く大腸内視鏡の挿入は簡単です。こういう人は下痢はよくしますが便秘は滅多にしません。逆にやせた女性は腸が長くたいてい便秘です。

 

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 3章 まずは便秘の予防から
   (3)難治性の便秘を治す「αループ法」

大腸下垂

 

 腸が長いことと関連するのですが、胃下垂と同じで、やせた背の高い人に多いです。胃に押し下げられて大腸の横行結腸というところが下に垂れ込みます。たれ込みがひどいと捻れてループを作ります。こういう人は、横行結腸のところで内視鏡が挿入しにくいし、逆に便も通りにくい。当然、便秘の人が多くなります。対処法としては、腹筋運動、逆立ち、太るなどがいいでしょう。腸のねじれは内視鏡で解除できます。

 (下垂症の人の絵)

 

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 3章 まずは便秘の予防から
   (3)難治性の便秘を治す「αループ法」

 

腸管走行異常

 

 これもやせた、腸が長い人に多いのですが、また、生まれついての便秘、何をやっても良くならない便秘に腸の形が捻れていることがあります。いろんな形がありますが一番有名なのがαループと逆αループです。

 腸が長い人はS状結腸はねじれやすいようです。普通は自然なαループに捻れますが、逆にねじれると逆αループといってひどい便秘になります。逆αループは交差するところがあり、不自然な形なので大腸内視鏡を挿入するときも難しいことが多いです。そういう人は逆に便も通りが悪いので、逆αループの人は決まって便秘です。大腸内視鏡で逆αループを解除すると、生まれついてのひどい便秘がその日からウソのようになおることがあります。また、以上に腸が長い人はS状結腸がループコースターのように2回転している人もいます。こういう人もたいていひどい便秘です。

 

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 3章 まずは便秘の予防から
   (3)難治性の便秘を治す「αループ法」

 

S状結腸軸捻転

 

 腸の長い人はS状結腸が捻れやすく、ループを描くことが多いのですが、それが完全に360度回ってしまうと、縁日の風船のように根っこが縛られS状結腸が袋状になり、便が全く通らなくなります。袋状のS状結腸にガスがたまり、張ってきて激痛が起こります。救急車で運ばれてきて、内視鏡でガスを抜いてねじれを解除してあげると簡単に整復治療できます。

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 3章 まずは便秘の予防から
   (3)難治性の便秘を治す「αループ法」

 

腸管癒着症

 

 腸が、周りの臓器と癒着してしまっている状態です。本来、横行結腸とS状結腸大腸は固定されていないのですが、手術や腹腔内の炎症によって、固定してしまうことがあります。捻れたまま癒着していたり、癒着の程度がひどいと内視鏡を挿入することさえ不可能になることもあります。腹部正中切開している場合が多いですが、盲腸などでも癒着することがあります。おなかの手術を受けた人のうち3人に1人くらいは何らかの癒着はあります。おなかの手術をしてから急に便秘になったときはこれが考えられます。この場合は、内視鏡を使っても意図的に整復することは難しいです。

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 4章 きれいな腸を取りもどそう
   (1)悪玉菌が引き起こす腸内汚染とは

 

「宿便」とは何か?

 

 「宿便」という言葉をご存じでしょう。しかし医学用語では、宿便というものはありません。

 一般的な宿便のイメージは、大腸の粘膜に、何年も便がこびりついているイメージですが、そういう宿便はありません。

 大腸内視鏡で、腸を覗くと、大腸粘膜はつるつるしています。

 こびりついてとれない便など全くありません。もしあったとしたら、大腸は水分吸収などできないでしょう。逃げ場もないので、古い便は新しい便に押されてトコロテン式に押し出されます。

 ただし、年輩の方には大腸の筋肉の薄いところが、外に飛び出して「憩室」と呼ばれる陥凹が腸にできてしまうことがあり、その中に入り込んだ便が石のようになって、「憩室糞石」と呼ばれることがあります。量も少なく「宿便」とは呼べません。

 大腸は、便を溜めておく場所であり、常に1キログラム以上の便がありますが、実はそのうちおよそ半分は腸内細菌の重さです。

 私は、大腸内に常時溜まっているこの便と腸内細菌のことを宿便と表現しています。

 宿便は、多くても少なくても体に良くありません。常に一定の量があって、絶えず流れているのが、自然な姿です。便秘で1週間もため込んだあとで、下剤で一気に全部出す、というようなことをやっていると、大腸細菌のフローラは安定しません。悪玉菌が増えるきっかけを与え、結局便秘がひどくなる悪循環をとります。

 宿便中に存在する、大量の腸内細菌とはどういったものなのでしょうか?

 

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 4章 きれいな腸を取りもどそう
   (1)悪玉菌が引き起こす腸内汚染とは

 

ビフィズス菌の効用

 

 人間の大腸には膨大な数の細菌があり、その数は約一〇〇兆個といわれています。人体を構成している細胞が約六〇兆個ですから、それをはるかに超える細菌が、すべての人の腸内には棲んでいます。

 これらの細菌類を総称して「腸内菌叢」とか「腸内フローラ」というような呼び方をしています。叢とは草むらとか花畑の意味で、無数の細菌が棲息していることを意味しているのでしょう。一方、フローラにも植物相という意味があります。われわれの腸内には、細菌叢という名の「自然」が棲息しているのです。

 腸内細菌は、人間が分解、吸収できなかった食物残さを分解し便の貯蔵、発酵防止に一役買ってくれるものもあるのですが、一方で毒素や発ガン物質を作ってしまう酵素もあります。

 このうち、人体の味方になる菌を善玉菌といい、その代表が乳酸菌やビフィズス菌です。

 ビフィズス菌をはじめとする善玉菌は、ビタミン類の合成や食べ物の消化吸収の補助などのほか、整腸作用、毒素や発ガン物質の生成を押さえる働きもあります。

 生まれたばかりの赤ちゃんは、菌を持たないのですが、お母さんのミルクを飲み始めると、ビフィズス菌が増え始め、しばらくは安定した腸内環境を保ちます。

 

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 4章 きれいな腸を取りもどそう
   (1)悪玉菌が引き起こす腸内汚染とは

 

腸内汚染の原因、悪玉菌

 

 一方、ウエルシュ菌に代表される悪玉菌は、腐敗菌、ガス産生菌ともいわれます。

 腸の中の菌が悪玉菌優位だと、便秘になる、大腸ガンになりやすいことのほかにも、ガスがでる、ガスが臭い、おなかが張る、おなかが痛い、口臭がする、体臭がする、肌が荒れる、頭が痛い、など様々な症状の原因になります。

 赤ちゃんのときは、ビフィズス菌が優位だったのに、だんだん年を取るにつれ、悪玉菌が増えてきます。善玉菌優勢から悪玉菌優勢に変わることを菌交代といいます。最近、生活環境の変化に伴って、比較的早い時期に菌交代が起こるようになってきているようです。つまり若い人に悪玉菌が増えているということです。悪玉菌は、人間にとって有害な物質を作りますので悪玉菌の多い腸は、有害物質や有害ガスで汚染された腸です。有害物質は大腸粘膜の豊富な血管から血液中に溶けて、全身に運ばれます。有害物質が肺から排泄されたら口臭になりますし、皮膚から排泄されたら体臭や肌荒れの原因になります。こういう汚い腸が腸の中だけでなく、全身を汚してしまうのです。

 どうして、菌交代は早くなったのでしょう?

 大腸ガンや便秘のときと同じく、ここでも食生活の欧米化が原因です。悪玉菌は、タンパク質を栄養として生きていますので、肉食中心の人の腸内腸内に多くいます。米やいも、豆などの炭水化物が中心の人には、炭水化物を栄養とする善玉菌が多くいます。食事の内容が欧米化すると早い時期に菌交代が起こってしまします。食物繊維が摂取量が少ないのも菌交代を早める一因です。

 他にも、ダイエットは菌交代を早めます。飢餓状態は、大腸の中の便を空っぽにしてしまいます。大腸の中にはふつういつも1kg以上の便があり、そのおよそ半分は腸内細菌なのですが、ダイエットをして飢餓状態になると、腸が空っぽになります。100兆あった善玉菌優位の腸内細菌が少なくなると、その後で分布が一気に悪玉菌優位に傾いてしまうのです。

 下剤の乱用も同じ理由で、菌交代を早めます。便秘のあとの下痢状態が便と一緒に善玉菌も排泄してしまい、腸が空っぽになってしまうのです。善玉菌が少なくなると、悪玉菌が勢力を伸ばします。

 このほかに、抗生物質も菌交代を早める大きな原因となっています。かぜでも何でもちょっと熱がでるとすぐに抗生剤が処方されます。確かに悪い菌は死にますが、口から飲んだ抗生剤は腸の中も通りますので、腸内細菌はみんな死んでしまいます。善玉菌がいなくなると、その勢いをかって悪玉菌が増えるのです。

 大腸ガンを引き起こす悪玉菌とは、いったいどんなものなのでしょう。

 腸内菌には非常に多くの種類があるのですが、大別すると乳酸菌と腐敗菌とに分類されます。乳酸菌は主に炭水化物を食べる善玉菌で、腐敗菌はタンパク質を食べます。これが悪玉菌と呼ばれるようになります。

 腐敗菌がタンパク質を分解すると、アンモニア、硫化水素、フェノールアミン、インドールといった物質ができますが、オナラや便の悪臭は、これらが原因になっています。

 臭いだけならまだしも罪は軽いのですが、このうちフェノールアミンやインドールは、大腸ガンを引き起こす発ガン物質なのです。

 さらに大腸内にはガンを引き起こす物質が作り出されています。それは二次胆汁酸です。

 胆汁は主に脂肪を消化する消化液で、胃に脂肪を含んだ食物が入ると、自動的に分泌されます。脂肪の量に敏感に反応する特徴があり、肉など脂肪の多い食品を消化するときは、胆汁の貯蔵場所である胆のうの活動が盛んになります。

 胆汁酸は、小腸で脂肪の消化を手伝い、それを終えると一部は吸収されて、製造元である肝臓に戻ります。しかし、食べた脂肪の量が多いときは、分泌された胆汁量も多くなるために、その一部が大腸に流れ込んでしまうのです。

 大腸の中にはウェルシュ菌や大腸菌といった腐敗菌があり、これらが流れ込んだ胆汁酸に作用することによって、胆汁酸は二次胆汁酸に変換されます。この第二次胆汁酸もまた恐ろしい発ガン物質なのです。

 腸内の細菌叢を善玉菌に変えることは便秘治療の第一歩ですが、同時に大腸ガン予防の第一歩でもあるのです。

 

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 4章 きれいな腸を取りもどそう
   (2)「腸内革命」――体の中から美しく、健康に――

 

毎日1本「ビフィズス菌飲料」の効果は?

 

 それでは、悪玉菌優位になってしまった腸内フローラを善玉菌の環境に変えるにはどうやればいいのでしょうか?

 毎日、欠かさずビフィズス菌飲料を飲まないといけないのでしょうか?

 それも一つの手です。ビフィズス菌飲料や、製剤には1回分で10億から100億の菌があります。大腸の中にいる100兆の菌をすべて取り替えるのに、単純計算で30年かかりますが、実際は、腸内細菌の数はかなり変動しますから、毎日飲んでいる人はもっとずっと早く効果が出るでしょう。

 今はまだ、症状のない人は、これから悪くなるのを予防するために、今日から毎日飲みましょう。

 

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 4章 きれいな腸を取りもどそう
   (2)「腸内革命」――体の中から美しく、健康に――

 

コロン・クレンジング(腸洗浄)で腸内革命

 

 「そんなに待てない、すぐに悪玉菌をやっつけて欲しい。」

 すでに症状のある人はそういうでしょう。短期間で腸内のフローラを変えてしまう方法はあるのでしょうか?

 答えはイエスです。

 しかし、100兆もの細菌がいては、腸内環境を変えるのは困難です。一度、宿便すっきりきれいに出して腸の中を空っぽにしないと環境は変えられません。

 腸内を空っぽにする方法などあるのでしょうか?

 それがあるのです。私はそれを毎日やっているのです。それは、大腸内視鏡検査の前に飲む腸洗浄剤(下剤)です。2リットルの水に溶かしたその下剤を飲むと、トイレに5回から10回行くうちに、便はまるで、水のようにきれいになります。腸の中だけでなく、口から肛門までの全消化管が、完全にきれいになります。いつもは、その後大腸内視鏡検査をするのですが、大腸の中に全く便はなく、大腸粘膜は非常にきれいなピンク色をしています。あまりにきれいなので、初めて検査を受ける患者さんはたいてい驚きます。

 また、この洗浄剤は腸管を刺激しないので、ふつうの下剤と違い飲んでもおなかが痛くなりません。

 2リットルも飲むのは大変なようですが、初めおなかが張ってきますが、何回かトイレに行くうちにだんだん張りもおさまってきます。

 完全にきれいにしたあと、比較的大量のビフィズス菌とオリゴ糖を飲みます。

 オリゴ糖はウェルシュ菌(悪玉菌)には栄養になりませんが、ビフィズス菌(善玉菌)の栄養になります。ビフィズス菌はこれを分解して、酢酸を作り腸内環境を酸性にします。酸性の環境は、ビフィズス菌にとって住み易く、ウェルシュ菌(悪玉菌)にとって住みにくい環境です。このため、ビフィズス菌とオリゴ糖はセットで飲みます。

 このようにして、コロンクレンジング(腸洗浄)によって、たった一日で腸内細菌叢をビフィズス菌優位のきれいな腸内環境にする事ができます。

 当然、便秘や大腸ガンの予防にもなるわけです。

 何年もかかって、だんだん増えてきた悪玉菌をたった一日で赤ちゃんのときと同じ、ビフィズス菌の環境に変えてしまう。コロンクレンジング(腸洗浄)はまさに「腸内革命」です。

 

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 4章 きれいな腸を取りもどそう
   (2)「腸内革命」――体の中から美しく、健康に――

 

コロン・ハイドロセラピーって、何?

 

 便秘の人は大腸には宿便が貯めすぎている、それを早く出したほうが美容にも健康にもいい、ということで、腸を洗浄するコロン・ハイドロセラピーがちょっとしたブームになっているようです。

 コロン・ハイドロセラピーというと、いかにも新しい健康・美容法と思われがちですが、これは「水浣腸」のことです。紀元前から行なわれている古い方法で、どこの国にもそれぞれの浣腸のやり方があったはずです。

 日本での浣腸の歴史も古く、大昔から家庭で自然と行なわれていたと思われます。子どもの体調が悪いときなどに、わりと普通に浣腸をしていたのです。

 体にある毒素を全部出してしまおうとする発想ですから、腹痛や発熱などには一定の効果が期待できます。ところが、現在では熱が出たからといって浣腸をする人はほとんどいません。おばあちゃんの知恵%Iな治療法が伝承されなくなったのでしょう。

 これを現代的にリメイクし、機械的にやるようにしたのがコロン・ハイドロセラピーです。原理的には、高圧浣腸や、腸洗浄と同じです。

 肛門から管を入れて大量の水を入れて、便とともに水を出します。

 私も大腸内視鏡の検査前に腸洗浄液(下剤)がどうしても飲めない人に、よく利用します。

 この方法は下降結腸あたりまではきれいになりますが、全大腸をきれいにすることは困難です。でも硬い便は肛門の近くにありますから、便秘治療としては有効です。

 上のコロン・クレンジング(腸洗浄)と違うのは、コロン・クレンジングは口から飲んで全消化管を洗浄する、トータル・クレンジングであるのに対し、コロンハイドロセラピーのほうは、肛門から入れてその近くをきれいにする、パーシャル・クレンジングであるということです。

 上行結腸あたりの便は残りますので1回の治療で、宿便のすべてを排泄することは困難ですが、何回か繰り返すうちに、腸内フローラを、替えることも可能だと思います。

 コロン・クレンジング(腸洗浄)と比較すると、回数、費用の面のデメリットがありますが、手間、時間の面ではメリットがあります。

 今後、便秘と大腸ガンの増加に伴い、日本でもアメリカのように広まっていくでしょう。

 

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その便秘こそ大腸ガンの黄信号
  

   

 

あ と が き

 

 大腸ガンと便秘は、ほぼ同時に増えてきました。大腸ガンで命を落とす人をゼロにしたい。それと同時に、大腸ガンの原因となる便秘を解消したい。そういった願いをこめて、私はこの本を書きました。

 本書で繰り返し述べてきたとおり、食生活環境の欧米化に伴って日本人の食事は肉食中心となり、食物繊維の摂取も不足しています。さらにストレス、ダイエット、下剤の乱用、抗生剤、ビールなど、現代人の生活には、腸の環境を悪化させる原因がたくさんあります。それによって、若い人の腸内細菌環境までも、ウェルシュ菌や大腸菌といった悪玉菌優位の状態に変化して便秘となり、腐敗ガスの多い汚い腸になってきています。便秘がちで汚い腸の人は、便秘・大腸ガンになりやすいというだけでなく、頭痛や腹痛、ニキビや肌荒れ、また体臭や口臭がひどくなるなど、さまざまな症状に悩まされます。

 食生活習慣は時代の要請でもあり、一筋縄ではいかない問題だったのが、それを腸内環境の問題に置き換えると一転してシンプルな問題となります。便秘を解消し、大腸ガンになりにくい体質を作るためには、腸内環境を整えて、ビフィズス菌優位のきれいな腸を回復すればいいのです。それを短期間で行う画期的な方法が「腸洗浄」です。

 また、大腸ガンでぜったい死なないための保険として、三五歳を過ぎたら、少なくとも五年に一度の大腸内視鏡検査をお勧めします。今まで検査に恐怖心があった人や一度受けて懲りた人も、「水浸法」という大腸内視鏡検査法でやれば全く苦痛がありません。

 生まれついての便秘の人や、これまでどんな方法でも治らなかったような深刻な便秘の人は、腸の形が捻れていることがあります。「αループ法」は、腸の形を整える内視鏡的便秘治療法です。腸洗浄は自宅でもできますし、無痛大腸内視鏡検査では腸洗浄・水浸法・αループ法を一度に行います。

 本書を読んで腸洗浄によって便秘が治ったり、無痛大腸内視鏡検査を受けて大腸ガンが早期発見されて助かったという読者が出てくれば、筆者としてはこれ以上の喜びはありません。みなさまの健康を心よりお祈りしつつ、拙文を最後まで我慢して読んでいただいたお礼を申し上げます。

 本書の執筆に当たって、第一会理事長・鎌形勇先生には、多大なご協力をいただきました。改めてお礼を申し上げます。また、お忙しい中、貴重な推薦文をお寄せいただいた、高野良裕先生、阿部知子先生には、この場を借りてお礼申し上げます。

医師  後藤利夫

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